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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第2章 破 ―信長の手習い―


「謙信様、信長様はなんと?」
佐助が尋ねる。
「信長の奴、の事を「うちの姫」だの「俺の姫」だのと言っている。慇懃無礼な言い回しで「くれぐれも可愛がってやってくれ」だの「可愛い声が聴けなくて寂しい夜を過ごしている」だのと書いて寄こした。業腹だ」
苦々しく言い捨てる謙信に、が慌てる。
信長がわざと謙信を煽ったのがには明白であるが、とんだ嫌がらせだ。
「信長様の戯れです!」
信長の戯れが恨めしい。
誤解を招くような言い回しを真に受けられては困る。
愉快そうに文を綴る信長の横顔が目に浮かび、早く誤解を解かねばと焦った。

「……多分、何と言いますか……信長様は私の事を身内同然のような感じで、気に掛けて下さっているのかと」
信長との経緯や信長の性格を考えてが言う。
「何故だ?血縁ではなかろう?」
「勿論です。ただ、出会いが出会いだったので」
「確か、本能寺で偶然助けたって言ってたよね?」
佐助が謙信を宥める様に口を挟む。
「そう。でもあの時は私も無我夢中な上に混乱しっぱなしで。だって、まさか時代を超えたなんて思っていなかったし、気付いたら火事なんだもん。佐助君だってそうだったでしょう?」
の事情を知る佐助はの混乱がよく分かる。
あまりに慌ただしく大事件に巻き込まれたのは自分も同じだった。
「まぁ確かに。俺も眩暈がして、気付いたら騒がしい戦場にいたから何事かと戸惑ったよ。しかも近くに死にかけた人がいたから焦った。何が何だか分からないけどぼんやりしてられないし、確かに混乱したな」
口ぶりからはその焦燥感が伝わらない、飄々とした口ぶりだ。
そんな佐助の話に、その「死にかけた人」が口を挟む。
「大雑把には聞いていたが、お前は本能寺が燃えている最中に、本能寺の中にいたのか?」
改めて、その狙いすましたようなタイミングに謙信も考え込む。

あの夜は本能寺の火事に気を取られ、と出会った事に関する記憶が薄い。
しかもどうせ信玄がたらし込んだ女だと思い込んでいたせいで興味を持たなかった。
暗がりだったこともあった為、更に曖昧だが、酷く怯えて動揺していたのは雰囲気で憶えている。

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