• テキストサイズ

【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第1章 序


身も蓋もない解釈にも根気強く続ける。
「はい。謙信様、えーと、もし仮にですが、信玄様に置き換えて考えてください」
心中で信玄に謝る気持ちはあるが、具体例を挙げなくては伝わらなさそうだと切り出す。
「信玄?」
形の良い眉がひそめられる。
「はい。もし私が毎朝信玄様に、どんな着物がお似合いだろうと考えながら着る物を選んで準備して、それを信玄様がお召しになるのはどうです?」
謙信がみるみる不機嫌な顔になる。
「そもそも何故毎朝あやつの部屋にいる必要がある。お前が居ればあの女たらしが大人しくするわけがない。それに着物だろうと何だろうと他の男の事など甲斐甲斐しく考えるのは我慢ならん」
ようやく伝わったかと、もう一息頑張る。
「ですから、そういう事です!毎朝謙信様の事を考えながら着物を用意したいんです!甲斐甲斐しく考えて過ごしたいと、言ってるのですが……」
せき込んで言うと、謙信は一度驚いた顔をし、そして腑に落ちたというように破顔する。
「そうか。それは嬉しい事だな。お前が毎日俺の事を考えるというのは心地のよい事だ。……だが信玄でなくてもよいだろう?何故こんな時こそ佐助で例えないのだ?」
「信玄様なら、万が一私の言葉足らずで誤解を招いてしまっても逃げきって下さるかと……」
の苦渋の言い訳に謙信は小さく苦笑した。
「なるほど、そうだな。佐助は逃げたくとも仕事に縛られているからな。そういう意味で信玄なら喜んで斬りに行ける。それはそれで愉快だが」
「例え話ですから、そう物騒に言わないでください」
説明しながら恥ずかしくなる。

二人は旅装束から着替えて一息つく。
は改めて部屋を眺めた。

掛け軸が落ち着いた水墨画になっている事に目が留まる。
「謙信様、掛け軸が変わっていますね」
「ああ。今までは人任せに邪魔にならぬ程度の物を掛けていたが、お前が眺めるのには兵法や論語の軸などつまらんだろうからな。今掛かっている物は当たり障りのない水墨画だが、そのうちお前が気に入る季節の花でも、好きな絵巻物の絵でも、お前が選んで掛ければいい」
謙信はこだわりなく言う。
は立ち上がって軸に寄り、ゆっくりと眺めた。

掛け軸なんて今までよく見なかったなと思いつつ、とは言っても裁縫の勉強をしていたのは多少なりとも役に立ったと笑みがこぼれる。
/ 47ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp