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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第1章 序


「馬鹿を言うな。お前を離さんと言ったのは言葉通りだ。お前が居なければ部屋に戻っても意味が無い。お前の部屋に入り浸るだけになる。大体、部屋を分けていてはすぐに触れられないだろう」
心外だとばかりに言われ、は戸惑う。
確かに共にいるという約束はしたが、そこまで考えてくれていたのは嬉しい。
けれど気が休まらないのではとも思ってしまう。

謙信の部屋は以前より広く間仕切りを取り払われていた。
外せる襖を外し、よく風が入る広い空間に新しい畳の香りがした。
箪笥が増え、文机も陽当たりの良い場所に増えている。
「随分お気遣いいただいてしまいました」
「この程度では駄目だ」
「え?」
「ずっとここにいるのだから、お前は僅かな要望でも言え。足りぬ物はすぐに揃えるが、お前が何を置きたがるか分からなかったからな。置き場所だけは増やしておいた。居心地よく暮らせるよう、好きに整えろ」
謙信の気遣いには嬉しくて困ってしまう。
「充分ですよ」
本心から言うが、謙信は納得しない。
「ひと月、一年ではない。この先もずっといるのだから、ここに長く過ごすお前には気に入る物を置いて過ごさせたいのだ」
ふと、は思い当たる。

この部屋にずっといるという、目に見えて分かる実感が謙信は欲しいのではないかと。

だったら、としても謙信を安心させたいと思う。
ずっとがいると実感できる物。
少し考えてからはおもいつく。

「……では謙信様」
「なんだ?」
「あの、本当に何でも言って良いですか?」
「ああ。約束は守る。何でも言え」
謙信が真剣な目で見つめ返す。
「でしたら、毎朝謙信様の着物を選ばせてください」
全く思いもよらなかった言葉に謙信が黙り込み、首を傾げる。
「お前が何を望んでいるのかもう少し分かるように言ってくれ」
「えっと、私も着物の着方においてはおおよその知識が付きましたので、その日その日の謙信様の着物を私が選んでみたいなと思ったんです。もう少し慣れたら着物も私が仕立ててみたいです。浴衣くらいならすぐに作れそうですが、羽織などは寸法を取って材料を選んで、しっかりした物を仕立てたいので」
の説明になおも謙信は分からないという表情である。
「それは、お前の労力だろう。お前の労力を増やすのがお前の願いか?」
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