• テキストサイズ

【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第4章 急―御手柔らかに―


「……」
「なんですか?」
「やはり佐助との腕相撲は禁止だ。腕試しをしたいのなら俺がいくらでも相手をしてやる」
「えっと……」
「安心しろ。今度は加減をしてやる。なんなら勝たせてやってもいいぞ?」
少し掠れた艶のある声で言われても困る。
佐助と腕相撲をするのは「お互いたくましくなったね」という挨拶のような物だ。
剣豪の謙信を相手に挑んだ所で負けるだけで、「先月より良い勝負になったね」などと労える気はしない。
「……いえ、負けても勝っても、私の負けなので。あまり意地悪を言わないでください」
困った声で言うに謙信は苦笑する。
「意地悪など言っていないだろう。佐助はどれほどお前にハンデとやらをくれてやったのだ?あやつとて俺が四年も付きっ切りで鍛えてやったのだからお前の細腕では勝てないだろう?」
はやや情けない声で白状する。
「佐助君は……、左の小指一本で相手をしてくれていたんです」
謙信は一瞬黙り、そして声を立てて笑う。
あまりに幼稚な戯れだと佐助の呆れ顔に納得だ。
左の小指一本なら、さすがの佐助も両手で体重を掛けられれば負けそうにもなるだろう。
佐助の忍術は力技というよりは素早さに特化しており、剣術もかなりの腕ではあるが剣士の作法で戦うには技巧に寄っている。
二人の真剣な声が滑稽にすら思えた。
「もう、だから言ったじゃないですか。佐助君は私が勝てるかもしれない、というくらいのハンデをくれていたんです」
「あやつもお人好しな質(たち)だからな。だが、お前が望むなら俺も小指一本で相手をしてやる。お前はどれだけ力をかけても構わんぞ?」
「分かっていて言わないでください」
は謙信と腕相撲をしてみて身に染みた。
謙信の腕は指先まで余すことなく鍛え抜かれており、どれだけ鍛錬を積んだのか分からない程に圧倒される。
小指一本でも容易く敗けるのは目に見えている。謙信の笑い声にが拗ねた声で「私は最初から負けると認めているじゃないですか」と言う。
/ 47ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp