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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第4章 急―御手柔らかに―


「そうだよね。謙信様、左腕に変えてあげてください」
「ああ。だがそう変わらんだろう。左腕同士なら左利きでもない限り差は変わらん」
左腕を出し直しながら謙信が規則に文句をつける。
「はい、その通りです。ですから、さんは両手を使っても良い、というように調整します」
佐助の説明に従っていると状況がするすると頭に入る。
情けない顔で腕を出しているに謙信は意地の悪い笑みを浮かべた。
「早く俺の手を両手で握れ」
「……はい」
渋々、という様子で夜長は謙信の左手を自分の左手で握り、右手を添える。

改めて手を握っていると心地の良い嗜虐心が生まれるが、同時にこんな事を他の男としていたのかと思うとやはり許しがたいという気持ちが沸々と湧き上がる。
自分の手を握りしめる白い柔肌はしっとりと温かく、潰してしまわないか心配になってしまう繊細さだ。

「ではまぁ、試しに一度してみましょう」
佐助が二人の肘の位置を少し直し、中央で自分の手を置いた。
「掛け声はそうですね……、「一、二の、三」で。相手の腕を机に触れさせたら勝ちです」
謙信は「分かった。早く数えろ」と言うが、その美しい微笑に妖しい雰囲気を纏っている事には嫌な予感しかしない。
「待って、もうこの時点で勝てる気がしないんだけど」
佐助に助けを求める。
「大丈夫だよ。俺に頼むように謙信様に交渉すればいいから、取り敢えず一度してみて」
確かに誤解をさせたのは事実であり、謙信を怒らせたままでいるのも気まずい。
は仕方なく頷く。
謙信は「勝負」と名がつくものに容赦をする気はなく、全力で勝つつもりでいる。
「では尋常に。一、二の、三!」
勝負は当然ながら呆気なくつく。
勢いあまっての手の甲をうっかり強く机にぶつけてしまい謙信は思わず「すまない」と謝る。
これ程に非力だとは思っていなかったのだ。
いくら細腕でも両手で本気で体重を掛ければもっと力があると思っていた分、あっさりと身体ごと姿勢を崩しているに悪い事をしてしまった気になる。
「大丈夫か?」
嗜虐心に興じて思わずやり過ぎた事に後悔して尋ねるが、は特別痛がる風ではなく、ただただ困っている。
「だから、言ったじゃないですか。謙信様に勝てるわけがありません」
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