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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第1章 序


「人質か?」
「いや、そんな風にも見えん」
「そもそも女を無下に人質になさる方ではない」
「それに謙信様が自ら口をきいてらっしゃる」
「ではどこぞの姫君か?」
「分からんが、随分(ずいぶん)とお顔が穏やかじゃないか」

民衆の噂話が聴こえてしまう。
国の為に戦をしてきた一行を歓迎するのは分かるが、それよりも謙信が女を連れているという事に人々は困惑しているらしい。

ひとまず山中の茶屋に寄った際、日傘を大きく立てた長椅子に謙信の隣に座りながらは気疲れをほぐす。
「どうした?やはり馴れないお前に馬の移動は辛かったか?もう少し長く旅程を組めば良かったかもしれんな」
気遣う声には苦笑する。
「いえ、私も早く落ち着きたいので。ただ、あまりに人の目を向けられると緊張してしまいました」
「……確かに、普段より出向かえがしつこいな」
「しつこいなど、皆さんの気持ちを無下にする言い方は良くないですよ。皆さんの家族もいらっしゃるでしょうし」
大切な人を戦へ送り、帰りを待つのがどれ程に苦しいか、にも分かる。
だからこそ無事に戻った兵達の一行を嬉しそうに出迎える人々の気持ちには共感しかない。
ただ、自分に対する視線が居心地悪いのだ。
「……しかし、お前があまり人目に晒(さら)されるのは俺も気に喰わん。どうせもう少しの距離だ。佐助」
謙信がやや大きい声で呼ぶと、佐助がすぐに現れた。
いまだに佐助の俊敏で音を立てない隠密行動には感心してしまう。
「なんでしょうか?」
「城まで俺が馬で駆ければそう掛からんな」
「そうですね。もう近いので」
「では後の指揮を頼んだ。普段と同じように帰らせろ。夜は宴だ」
「急用ですか?」
「いや、私用だ」
言うが早いか、の手を握って歩き出す。
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