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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第3章 破―犬も喰わない―


『面倒な男ではあるが複雑ではない。猛れば刀を抜き、正さねばと思えば深夜であれ家臣を叩き起こして布令を出させる。酔いたければ先の事など考えず酒を飲み、欲しいと思った時には頭で考える前に掴み取る。自覚はあるが直すつもりもない。だからお前も覚悟する事だ。触れたいと思えばどこであれ誰がいようと構わない男だ。みだりに人目のあるところで煽らない事だな』
と言っていた。

助言であるようで具体策はさほどない。

とはいえ、謙信がの意見を聞かずに黙って戦を仕掛けるよりはずっと甘い表現方法だと思い直す。
も出来うる限りは答えようと苦心しているが、こうして傍にいられるならその苦労も贅沢な苦労だ。
「数日ここで謙信様を待つことくらいならお安い御用です」
大きな背を抱き締めて言うと、謙信は頬を寄せてくる。
「約束を変えたくなった」
「はい?」
「数日でなく、ずっとここにいろ」
甘い声につい頷きそうになるが、現実的でない事に苦笑して「ずっとここにいるというのは少し不便ですね」と言う。しかし、間を明けずに、「ですが、ずっと傍にいたいので、謙信様もずっと傍にいてくださいね」と言い添えた。
の言葉に満足したらしく、見合わせた顔には穏やかな笑みがあった。
「……ああ。当然だ。お前がいなければここにいる意味も無くなる」
「ふふっ。私もこの乱世に留まる理由がなくなります」
触れるだけの口づけをし、謙信はの髪に触れた。
「もう行かなくてはならないのが腹立たしい。すぐにでも抱きたい気分だが、そうすれば会議が三日四日と遅れてしまう」
心底惜しそうに言うがも気持ちは同じである。
「私も名残惜しいですが、皆様をお待たせしてはよくないので」
「ああ」
「そうだ」
身体を離しかけた謙信にが思い付き、悪戯に言う。
「なんだ?」
「いってらっしゃいませ」
にっこりと笑ってから背伸びし、謙信の頬に口づける。
驚いた顔の謙信には「挨拶です」と言う。
「一緒に暮らし始めたら、朝出かける前と帰った時にこうして挨拶するんですよ」
内心悪戯心で拡大解釈した事を言ってみせる。
謙信が我慢しないのを見習っても自分から気持ちを伝えたいと思い、満足げに話した。

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