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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第3章 破―犬も喰わない―


「、二日ほどは忙しく留守にするが、出来るだけ早く片付ける。だからお前はこの部屋から出るな。城内も騒がしく城下も浮き立っている。そういう時程警戒せねばならん」
朝、身支度を整えた謙信に言われ、は素直に頷く。
「はい。邪魔にならないように大人しくしています」
謙信は小さく笑っての頭に手を置いて軽く撫でた。
「邪魔なのはお前に近付く輩だ。騒々しさに紛れて間者が紛れる恐れもある。警備や見回りの調整を付けて城内の規律を見直すまでお前が安全な場所でおとなしくしていなければ俺は気が気でない」
「分かりました。ここにいれば良いんですね?」
「ああ。ここにいる間は何をしても構わん。足りない物や欲しい物があれば控えている下女に言いつければ用意するよう言ってある。急ぎの用事があれば俺に言伝る手配もした。俺も時間が出来ればひと時でも戻る。だからここにいると約束しろ」
あまりに用心深い気がするが、不意を突かれて怪我をしたの為に大戦を始めた謙信の気持ちを考えれば安易に「おおげさだ」とも言えない。
は微笑んで「約束します」と答えた。
「……お前がそんな顔で素直に約束するなどと言うと……」
穏やかな微笑みが消えた謙信には首を傾げる。
「はい?えっ……?」
唐突に抱き締められては身体ごと謙信の胸に倒れてしまう。
「触れたくなった。……こうして、いつでもお前に触れられることに、慣れるのは難しい。堪らなく嬉しいのに、まだ夢のようだ」
率直な言葉で抱き締める謙信にも腕を回す。

謙信は自分でも「我慢は嫌いだ」と言うが、が驚くほどに人目をはばからない。
目が合えば微笑み、傍にいれば手を重ね、思いついたように口づける。
唐突に思える事もあるが、少しでもそうしたいと思う気持ちを我慢しないのだ。
謙信の物腰から、人の目がある所では弁えそうなのに、信玄の前でも抱き寄せ、家臣のいる前でもが遠慮して席を外そうとすると手を握って「すぐ済むからここにいろ」と微笑む。
こういうのが普通なのだろうかと思いかけるが、信玄は揶揄ったりするし、家臣の人々もそういう時には目を逸らして気まずそうにする事から、やはり謙信が少数派なのだと確信する。

信玄は「謙信はそういう男だからな」と笑う。
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