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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第2章 破 ―信長の手習い―


書体には人柄が表れる物だ。

流麗だが豪快、豪胆にして深みがある。
謙信は机の隅に無造作に開いて置かれたままになっていた、信長がに宛てた文にも目をやり、そしてふと思う。

信長の傲慢な態度は気に入らないが、に書いてやった短い文には確かに誠意や思い遣りを感じられた。
左から右に、しかも横書きをするという書の作法を横紙破りにした書き方はある種圧巻でもある。
何より、認めたくはないが信長の柔軟さが伺えた。
は謙信に読みやすいように書の練習をして毛筆に慣れようとしている。
しかし信長は自分の常識を脇へ置き、が読みやすいような書体で書いてやった。
そこには強引な印象に反して相手に譲歩する姿勢が表れている。
自分と信長では根本的に性格が違い、相容れないのは承知であるが、おそらくまだ今よりも生活そのものに馴れていなかっただろうにさりげなく歩み寄り、少しでも気楽にしてやろうという気遣いが伺えるのだ。
やり方はさりげなく、は揶揄っていると言うが、それも信長なりの相手に気取らせない気配りだろう。
信長の事を好意的に理解しようとは思わないが、少なくとも信長がさほど手数に思わずの為に読みやすく書を書いてやったというのは事実である。
謙信はただただを壊れやすく儚い存在だと思い、守ってやらねばと思っていたし、今でも守ってみせるという気持ちは変わらない。
けれど信長は少し違う。
端から「好きにしろ。何かあれば守ってやるから楽しめ」という、相手を自由にさせてやりながらも何かあれば守り切るという自信に満ちている。
閉じ込める事で守ろうとする自分の遣り方とは正反対ともいえる、自由にしてやりながら責任を持って見守る信長に、一定の評価をせざるを得ない。

謙信も戦運びでは思いきれる。
家臣に任せる部分は信頼して潔く任せられる。
戦況の読みや瞬間瞬間の判断には勘が働き、大きな損害を部下に与えることも避けられる。
だからこれまでも勝ててきた。
部隊が弱れば自分がその分いくらでも肩代わりし、それすら楽しめる。
けれど、それをには出来ない。


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