• テキストサイズ

【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第2章 破 ―信長の手習い―


反物の間に挟まれた一枚の和紙を広げては笑う。

がうっかり横書きでメモをした時に、何故そんな書き方をするのかと興味深く聞いてきた信長を思い出す。
仮名だけでなく漢字を書けて、寸法を測る際にアラビア数字を書いていたのを見られた時には説明に困ったが、信長は好奇心が旺盛で「知識ある者は老若男女構わず興味深い。それだけ文字を知る貴様がこんな奇妙な、作法を無視する書き方をする理由を教えろ」と、随分しつこく問いただされた。
どうにか「こういう風にしか書きなれていないので」という正直な理由を押し通したが、それも愉快がった。
けれどそれ以来、信長は短い文章を「これは馴れぬ俺には面白い手遊びだ」と横書きの文字で書きつけて寄越していた。
和紙に毛筆ではあるが、が読み慣れた横書きで左から右に一文字ずつ区切った筆運びで書いてある。

『身の回りの肌に纏(まと)う物は、嫉妬深い越後の龍に揃(そろ)えてもらえ』

「新鮮だな。信長様の字は読みやすい」
佐助が奇妙に感動しているが、歴史好きな佐助からすれば、信長が毛筆で横書きをした書は確かに珍品なのかもしれない。
「うん、達筆だけど豪快な字だよね。何でも面白がる方だから。……でも謙信様、お分かりでしょう?揶揄っているだけですよ」
謙信は不機嫌極まりない表情ではあるが、確かにが身に纏うものを辞退し、わざわざ明確に自分にその役を譲ったという態度には多少の気遣いは汲める。
しかしそもそもが揶揄われて良い気はしない。
信長の腹積もりもやはり納得しきれないままだ。
「ふん。まるで自分の物の様な言い草は気に喰わんが、身寄りの無い世に来たお前を一番に保護したのは事実だからな。腹立たしいが我慢してやる」
「仕方ないですよ。偶然飛ばされた先がたまたま違っただけで、もし信長様を助けていなかったら露頭に迷っていたかもしれませんし、俺も見つけられなかったかもしれません」
「確かに、佐助君と再会出来たのはつくづく奇跡だったよ。私、一人だったら本当に自分の正気を疑う事になってたかもしれない」

佐助が仕事に戻り、は自分の持ち物を片付けながら、ついでに手入れをしている。
謙信も留守の間に溜まった書簡や報告書を片付けていたが、処分する函に放り投げた信長の文が目に入り、改めて今一度筆跡を眺めた。
/ 47ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp