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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第2章 破 ―信長の手習い―


「それは……俺より大変だったね。その日のうちに全員と出くわして、よく無事でいられたよ。正直、信長様がさんの言い分を聞く前に斬っていてもおかしくはないし」
心底気の毒そうに言う佐助にも苦笑する。
「うん。でもさすがに信長様も火事を一緒に逃げた相手で、しかも女だったから警戒しなかったんじゃないかな。ちゃんとお礼を言って……くれた?気がするし。すぐに着替えを用意してくれたりしたし、概ね悪い人じゃなかったもの」
困ったように笑うが謙信には底抜けに呑気に思える。
とんでもない三すくみ状態の大将達に一晩で出会い、誰にも斬られずに済んだとは驚愕である。
「確かに、それを聞くととんでもない目には遭っているが……信長はお前を自分の女にしたがったのか?」
一番腹立たしい事を問いたださずにいられず、鋭い目のまま問う。
は手をパタパタと横に振りながら説明した。
「信長様は基本的に誰にでもそういう事をおっしゃるんです。揶揄って愉しむ人なんですよ。でもそのかわりに口答えをしても、怒って言い返しても怒らないので……というか、そういう反応もおかしがる方なので……まぁ、私の印象としては「悪人」というより「意地悪」な人でしょうか。横暴で気分屋ですが根本的には鷹揚ですし、多少私が馴れずにおかしな事を言ったりやったりしてもおかしがるだけで無闇に怒ったりはしませんでした。偉そうですが、考えてみれば実際に偉い方ですしね」
呑気な言い草に呆れるが、同時に信長の反応に疑いが深まる。
いくら恩人とは言え、あの暴君で有名な信長が女相手であれ戯れを許し過ぎている気がしてならない。
命令に背かずとも、立ち居振る舞いや口数ひとつで斬られた家臣も多いと聞く。
器はあるだろうが、どうにも強引で野蛮な印象が先行する。
そもそも権力を持ち豪快な事で有名な信長なら、その場の勢いで女ひとりを自分の物にしてしまうことくらい簡単だ。
「怪しいものだ。信長はまだ正室を娶っておらん。その信長が戯言でも自分の女にすると出会ったばかりの女に言うなど考えられん。本音もあるだろう」
謙信は仏頂面で文を机に投げる。
「謙信様が誤解する気持ちも分かりますが、信長様はどうしようもなく享楽家なんです。私が真に受けて逃げたり怒ったりするのを揶揄うんですよ」

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