第3章 サキの術・少年時代1
君は私が言った分け合うための時間の意味をわかったのか、そのまま続ける。
「でも父さんは…掟を破って、仲間の命を優先して助けて…任務に失敗したんだ。それで…周りからいろいろ言われて…体も心も病気になった…それで…父さんは自分で…」
かかしの最初の闇は、思っていたよりも壮絶なものだった。私は君を強く抱きしめて、背中をポンポンとゆっくり叩く。
「かかしは…掟を破ったお父さんを…仲間の命を優先したお父さんを…どう思う?」
「…仲間は絶対助ける…それが俺の流儀だった…
でもそれをやった父さんは、その助けた仲間にすら、最後は裏切られて、任務失敗をせめられたんだ…
だったら、俺も、父さんも…間違っていたんだよね?」
震える声で、君は涙をいっぱいに目にためて私を見る。
こんな小さな子が、たった一人でこんな現実を背負わされているのか。
忍びにとって任務は絶対。
時代の流れとともにその価値観も考えも変わりつつあるが、少なくともこの時は、掟を破ることはかなり咎められたであろう。
それにも関わらず、助けた仲間からも見放され、君をおいていくほど追い詰められた苦しみを味わった父親。
かかしの怒りの原因はそこにある。
そして、君の流儀を変えてしまうほどの影響。
これはいくらなんでも辛すぎる______
「かかし、私はね‥間違ってるって思わないよ。
そのかかしの流儀、私はすごく好きだな。
それにきっとかかしのお父さんは、本当の強さって何なのかをしってたんだね。」
「…本当の強さ?」
「うん。かかしのお父さんは、すごい忍びだったんでしょ?掟をやぶることがどういうことかわかってたはず。
でもお父さんはあえてそれを破った。仲間のために。
それって、今のこの忍びの世界で、誰もができることじゃないよ。ただ力が強いだけが強さじゃない。
お父さんは、たくさんの強さをもって、それでいて本当の強さの意味をわかってた。
それをかかしはこれから見つけなきゃならないね…
そうしたら、お父さんのこと、今よりもっとわかるんじゃないかなぁ…」
そう言って君をみると、たまった涙はポロポロと頬をつたう。それを見られまいと君は必死でふき取った。