第13章 虹色の縁(えにし)
『ほんとにっ!本当に、気をつけてくださいよっ!』
『あぁ。わかっている。』
『万が一にでも落ちたりしたら…』
『俺が落とした事があったか?』
『ないですけどっ!』
『ちゃんと捕まってろよ? 御舘様の腰に腕を回して、な。』
『ねぇ、ちゃんと聞いてる?』
透き通る青空の下、私は信長様の馬に横抱きで乗っていた。
佐助くんが広間に来た五日後の今日。
もうすぐ懐かしいあの丘に、謙信様たちが来てくれる。
下準備を終えた秀吉さん、三成くん、政宗が戻ってきて、出発の支度が整った。
捲し立てるように、秀吉さんと家康が交互に私と信長様に話し掛ける。
「すごいねぇ。戦みたいだね。」
『呑気なこと言わないで。あんたが籠じゃなく信長様の馬で行きたいって言うから!』
「だって、あの揺れで気持ち悪くなりそうだから。久しぶりに外の空気や景色を楽しみたいし。」
『吐き気止めの薬湯つくるっていったじゃん。』
「…にがいもん!」
『はぁ?』
『御舘様、道中の配置は私が先頭、殿は光秀。周りを政宗、家康、三成が、弥七、吉之助が固めます。既に光秀、政宗、家康の配下の忍びも定位置に付き追走してくる手はずです。』
『わかった。』
「ねぇ、咲は?」
『もう、あっちにいる。あんたの準備してる。本当に、気をつけてよっ。』
『御舘様、馬上で戯れたりなんて絶対に駄目ですからね!』
『家康も秀吉も…しつこいぞ?』
「んあっ!」
『『どうした(の)?!』』
「赤ちゃんがみぞおちの辺りをぐあって蹴ったの。ちょっと痛かった。」
『早く行きたいと言っておるのだろう。ほら、出発だ!』
『ふぅ。ゆっくりと行きますからね。しっかり捕まるんだぞ!』
「はぁーい。」
『真面目に!』
『兄様、煩いぞ。』
『料理の仕上げが残ってるんだ。まだか?』
『はぁ、何かあったら言ってよ?』
『では、出立!』
咲が用意してくれた真綿入りの薄紅色の羽織には、桜が刺繍されていた。針子の皆が作ってくれた膝掛けを胸元まで引き寄せる。
雲間から除く陽射しがいくぶん柔らかくて、春の訪れを実感した。