第12章 限られた時間
「ねぇ、家康。立ち合いは?出来る?」
『立ち合い?』
『出産の時に信長様も同席するって、やつでしょ?』
『するのか?』
『駄目でしょ。譲歩して、となりの部屋にいてもらう。
俺と咲が産室に入ります。いいですか?』
『仕方あるまい。』
「どうしても、無理なら信長様を呼びます。叫んで。」
『わかった、そうしたら入ってやる。』
『…勝手にしてください。体調は良さそうだけど、少しだけ貧血があるね。政宗さんに滋養にいいもの頼んどく。
じゃあ、診察は終わり。俺は行きます。』
家康は手早く立ち上がると、広間の襖に手をかけた。
『…人払いしておきます。少しはご夫婦だけで過ごしてください。』
「家康っ、どうしたの?なんか優しい。」
『…っ。はぁ。知らない。』
ふわっと笑うと、襖を閉めた家康の影が遠ざかっていく。
『竹千代めっ。』
「どうしたんですかねぇ?」
『まぁいい。あやつのお陰で、貴様を愛でる時間が出来た。』
「お仕事は、大丈夫なんですか?」
『あぁ。どうにかなろう。』
「じゃあ、縁側で福寿草を見ましょう。」
『まだ咲いているのか?』
「あと、少し。」
『そうか。』
その後、私は縁側で信長様に包まれながらお茶を飲んだ。
咲が運んでくれたお菓子を半分ずつ食べあって、大きくなったお腹の上で手を繋いだ。
男の子か女の子か、そんな話はしなかった。
だって、わかっているから。
何も話さなくても通じあっているようで
眼と眼が合えば、自然に唇が重なって、手が触れれば繋ぎあってそれだけで満たされる。
やっぱり一心同体なんだって、そう思った。