第8章 福を呼ぶのか、闇を呼ぶのか
私の意識がはっきりしたのは、もう太陽が昇りきった頃だった。
高く積まれた座布団に持たれるように眠っていたようで、まだ頭がぼうっとする。
赤ちゃんは無事だろうか。
私はこれからどうなるのだろう。
『?起きた?』
「家康。」
『大丈夫?咲を呼ぶから出血してないか見てもらおう。』
「うん。」
『腹は?痛くない?』
「うん、大丈夫。」
咲が来て、家康が出ていって、咲がひと通り見てくれた。
『出血してないご様子です。』
『良かった。でも、絶対安静だ。止血の薬湯を飲んだら、寝て。』
「…はい。赤ちゃんは?」
『様子を見るしかない。かなり出血したら、守りきれないかもしれない。
大丈夫。信長様との赤子なら強いはずだから。』
「うん。」
『そうだ、政宗さんが粥を作ってくれてる。食べれたら食べよう。
あと、信長様達が無事に任を終えられて、戻って来てるよ。あと数日で会える。』
「みんな、怪我は?」
『大丈夫。』
「信長様は?」
『大丈夫だって。』
「良かった。」
『だから、安心して。』
「うん。」
きっと 夢だから。
信長様が私を襲うなんて
正夢になるわけない。
大丈夫。
少しだけ政宗の作る出汁の香りがした。
ほんの少し開けられた襖から福寿草が見えた。
ねぇ、お願い。
毒じゃなく、福を連れてきて。
風が吹いて、花弁が小さく揺れたのが見えた。