第4章 咲の涙
「政宗は?」
『奥州は、こっちより雪解けが遅いらしくてな。無理はしてほしくないが、状況からそうも言ってられなくてな。政宗は単騎でも雪解けに合わせて出るそうだ。』
「そっか。」
秀吉さんが淹れたお茶をゆっくり飲み込んで、一息ついた。
「…体調は、そうだね。いつもよりはあまり良くないかな。凄い出血ではないけど、止まらないのも本当。
家康が来るまで、余り無理せずにいるね。」
『あぁ。それなら安心だ。…御館様は御存知なのか?』
「うん。知ってる。必要なら医者を呼ぶって。
でも、私も信長様も家康を信頼してるから。」
『そうか。何かあったらすぐに言えよ?』
「うん。ありがとう。」
『…金平糖食べちゃえよ?』
「うん。」
桃色の一粒を口に放り込む。
ほんのりと広がる甘さが…
胸につまった。
バレないようにお茶を飲んだ。
『じゃあ、行くかな。光秀が定時報告で戻ってきててな。今回も何処に行ってたんだか…だから、また軍議なんだ。』
「そう。忙しいね。」
『あぁ、は休んでろ、な?』
秀吉さんは、そう言うと優しく笑って頭を撫でた。
じゃあな、と立ち上がろうとする私を手で制して、ひらりと手を振ると襖を閉め、廊下を歩いていった。
ぽたりと、冷や汗が流れた。
足音が聞こえなくなるまで目を瞑り、耳を澄ませる。
静かになったのが解った途端に、込み上げてくる吐き気に私は近くにあった手拭いを取った。
吐きそうで吐けない。
額から流れる汗が、またぽたりと畳に染みを作った。
我に返った私は、考える。
500年後の世界から来た私じゃなくても、この時代の女性ならきっとすぐにわかる。
これは、。
風邪じゃなくて
きっと。
でも、どうして出血が止まらないの?
流産していてもつわりがあるって、聞いたことがあった。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
言えない。尚更。
秀吉さんが置いていった金平糖が、日差しに当たってキラキラと光った。
でも、私は綺麗だとは思えなくて。暗い部屋の隅を見つめ続けていた。