第19章 虹色の明日へ
「それって、お食い初めのこと?」
『なんだ、の世でもあったのか。』
初めての子育てが、少しだけ慣れてきた初夏。
すっきりとした気持ちの良い風がふんわりと襖から入る。
授乳が終わって、ようやく寝付いた奏信の柔らかな髪を揺らしている。
『一息いれましょうか。』
そう言ったのは、咲だった。
『お茶とお菓子をご用意します。』
湖都ちゃんが静かに立ち上がって襖を開けた。
「ちゃんと、三人分ね。」
『はい。わかりました。ふふっ。』
奏信の子育てが始まって、もうすぐ三ヶ月が過ぎる。
世話役の湖都とも、ようやく打ち解けてきた。
まず、私を【奥方様】とか【ご生母様】とか呼ぶことをまず止めさせた。そして、咲が用意してくれる休憩用のお茶菓子に手を付けない事を注意した。
話せば、私より少しだけ年下で、妹や弟の世話をしてご両親の代わりに家事全般をやっていたそうで。
私よりしっかりしていた。
湖都ちゃん、と呼ぶとはにかむ姿が可愛らしい。
パタパタと足音が近づいてきたので、お茶を飲むために文机を片付けていると、湖都ちゃんとは違う重みのある足音が聞こえた。
『、今いいか?』
「秀吉さん。どうしたの?」
『いや、相談があってな…。そう様の事で、って、そう様はお昼寝か?』
「うん。さっき寝付いたの。小さな声でね。」
『あぁ。気を付ける。…そう様、もうすぐ御産まれになって百日だろ? 箸揃えの祝いと城下の神社へのお参りをすることになってな。』
「箸揃え?」
『奏信様のご生誕から百日の頃合いに、生涯食べ物に困らないようにとの願いをこめて膳を召し上がっていただくのです。』
聞き慣れない言葉に、咲が補足をしてくれるのが当たり前になってきた。咲の然り気無さが暖かい。
「それって、お食い初めのこと?」
『なんだ、の世でもあったのか。』
「鯛のお頭焼きやお赤飯とかを食べさせる真似をするんだよね?」
『そうだ。知ってるなら話が早い!
信長様と光秀が鷹狩りで、食材を調達するそうだ。
政宗が、そう様の膳を準備するって気合いを入れてる。
家康が歯形め石を神社から頂いてくるそうだ。
三成は、宴の準備で、俺が箸揃え一連と神社参りを取り仕切る。』
「気合いはいってるね。」
『当たり前だろっ!』