第14章 春の輪廻
「皆さん、遠い安土まで、今日はありがとうございます。
あの時、安土と私を守ってくれてありがとう。
あんな夜襲、初めてだったので私は泣くばかりでした。
でも、皆さんがいてくれたから今があります。
敵方の城を守り、敵将と共に戦って、私を守るのは嫌だったかもしれないのに…。本当に感謝してます。」
軒猿の皆さんは、静かに頭を下げた。
『さん、ありがとう。忍の仕事は影の部分が多くてね。あまり感謝されたりはしないんだ。だから、みんな本当は嬉しいんだ。だけど、やっぱり友好とはいえ敵地だしね。皆何も言えないんだ。』
「そっか。…必ず生きてくださいね。今度は政宗の甘味食べましょう。」
『…無事の御出産を御祈り致します。』
『はっ、ほんとすごいや、さんは。』
佐助くんが笑うと、軒猿の皆さん達はいなくなっていた。
『あ、そうそう。これ、幸と俺から。』
佐助くんが差し出したのは、白い布に包まれた小さな箱だった。
「これ…」
『御守り。越後の上杉武田軍がよく祈祷に行くお寺から頂いてきた。安産とかじゃないけど…、きっと護ってくれる。』
「ありがとう。大切にする。」
『現代を知ってるからこその出産の不安、あると思うんだ。』
「うん、そうだね。」
『でも、忘れないでほしい。君には強い味方が陰にも日向にも沢山いる。何かあったらいつでも呼んで?』
「うんっ、ありが、と。」
さぁっと風が吹いて、ざぁっとこぶしの枝を揺らす。
ひらひらと花弁が舞った。
「さっ、佐助くん?」
佐助くんが膝立ちをして私の手を取った。
佐助くんのかけた眼鏡が陽射しに反射する。
『俺は、きっと君のためにいる。きっとこの世界は君には優しいから。』
チュッ
そう言って手の甲に口づけた佐助くんは優しく笑った。