第5章 「初恋」/源義経
「私の初恋の相手は……
確か近所の少し歳上のお兄さんだったと思います」
「そうなのか?」
「はい。あ、でも恋愛的な意味でではなく、
憧れに近かったかもしれません」
「憧れ?」
思いもしなかった回答だったのか、
義経様は紫水晶の美しい瞳を大きく見開いて、
驚いたように私に問いかける。
その様子に私はクスリと笑みを零した。
私がまだ幼かった頃。
近所に私より三つほど歳上のお兄さんがいた。
その頃は一緒によく遊んでくれたなぁと幼い頃の記憶を思い出しつつ、
懐かしさに笑みを浮かべる。
彼は今も元気なのだろうか。
もう気軽に会える距離にない分、
今も元気に過ごしているのかはもう分からない。
きっとカッコ良い容姿をしていた彼のことだから
素敵なお嫁さんを娶って幸せに暮らしているだろう。
「その人はいつも周りで困っている人がいたら助ける人だったんです。
私も子供ながらにそんな彼の姿に憧れの気持ちを抱いていました。
いつか私も彼のように、
困っている人を助けられるような人になりたいって」
にっこりと微笑みながらそう告げると、
義経様がほんの少しだけ目を細めて、
「そうか」と優しい声で返事をしてくれた。