第17章 燭台切光忠 伊達男に身も心も奪われて・:*+.
「お前と俺は似てる気がする。」
ふっと笑いながら酒をぐいっと飲む政宗公のお猪口に酒を注ぐ。
「僕は政宗さまのように男らしくないです。今も不甲斐ない自分に嫌気がさしていて…」
「なぁ月弎郎。いろはは最初に会った時から、俺を見てるようで俺を見てなかった。まるで、俺に似ている誰かを想っているようで…正直嫉妬した。」
「政宗さま…」
「お前に会ってすぐに分かった。いろはの想い人はお前だって。」
「…」
「ついさっき文が届いた。俺は明日出陣する。秀吉さまの手伝いに行かなきゃならない。…恐らくここにはもう戻れないだろう。
いろはをお前から奪ってでも連れて行きたかったが…あいつからあの笑顔を奪いたくねぇからな」
政宗公は困ったように優しく笑う。
「月弎郎。いろはを幸せにしろ。住む世界が違うことなんて関係ない。惚れた女を絶対に泣かせるな。」
「っ!」
「男ならかっこ良く生きろ。真の伊達男になれ。」
「…はい!」
僕は震える手をぎゅっと握りしめて、しっかりとその言葉を心に刻む。
あぁ。この方はなんてカッコいいんだろう。
この方をあれだけ間近で見てきたのに…あれだけの時間を共に過ごしたのに、僕は何一つ彼に近づけていない。
今の僕じゃだめだ。
もっと強くならなければ。
「じゃあな!ゆっくり休めよ。」
「っ!…政宗さまっ!その刀は…貴方と共に戦えることを光栄に思っているに違いありません。」
部屋に戻る政宗公の背中を見つめながら、とっさに溢れた熱い想いが口からこぼれてしまう。
「お前もいろはも不思議な事を言うんだな?…この刀は俺が一番信頼してる相棒なんだ。この燭台切光忠の主になれて幸せだ。」
振り返った政宗公はにっと笑うと、刀を優しく撫でる。
「…最後まで御武運を。」
「あぁ。お前もお前の主を守れる男になれよ?」
「はい!」
伝えたい想いは山ほどあった。
だけどどんな言葉も彼を前にすると、発することさえ出来なかった。
彼の歴史は変わらない。
彼と僕が過ごした日々も変わらない。
ただ…彼に感謝を。
僕を愛刀に選んでくれたこと。
最後まで貴方の側で戦えたこと。
「僕も…幸せでした…。」
僕はその大きすぎる背中が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けた。