第1章 Look【リドル・ローズハート】
「変な噂になってるねえ」
「・・言い出した奴はどいつだい?見つけ出して今すぐ首を・・」
「いや、元を辿ればリドルくんが変なこと言うからじゃん?しかも言い逃げするし」
「・・はは、首が惜しければやめておけケイト」
食堂に向かう途中。
ハーツラビュルの3人組の空気は最悪であった。主にリドルの機嫌が最悪だった。今気に障ることを少しでもしたら速攻首がとびそうなくらいリドルのいらいらゲージは最高潮だった。
リドルだってケイトの言うとおり、勢いに任せてあんな失言をしてしまった以上多少噂になる分は構わない姿勢でいた。ハーツラビュル寮長が監督生に好意を寄せている、程度なら許容するつもりだった。この程度リドルにかかればすぐにもみ消してやれるからだ。
自分の尻は自分で拭ける、ということである。
しかし、あろうことか噂にはユウが思いっきり巻き込まれている。それはリドルにとって大きな誤算であり、心を乱すには十分すぎる要因。
この噂をユウが真に受けるたと仮定すると、監督生をユウにとられると思って余裕の無くなった恋する男になってしまう。
違う、そうではないのだ。当たらずといえども遠からず、ではあるが違うのだ。
監督生をとられそうになり慌てたわけではない。
ユウを監督生にとられるような気がした。
1年次より何気なく傍にいた彼に、何気なく好意を寄せていた。それこそ、性別のことを忘れる程に。
学びに対する貪欲な姿勢も、自分を疎むことなく寄り添ってくれたところも、
”窓に映る” 綺麗な横顔も。時折盗み見るようにこちらを向く暖かな眼差しも。
いつの間にか語らう時間が楽しみになるほど、ユウを特別に思っていた。
そんな彼が、自分は監督生に好意をもっているなんて勘違いをするものだから。その口ぶりが少しばかり拗ねているように聞こえたから。妙な期待をしてしまった。
現実は自分に都合良く存在していない。
”自分も監督生のことを狙っているかも”
彼が、ユウが男だと突きつけられて、一気に体が冷えたような気がした。
今までなんて気持ちの悪い感情を彼にむけようとしていたのか。
リドルの抱くユウへの好意は決して友愛に収まるものではなく、恋だとか愛といった方が腑に落ちるものだった。