第13章 心だけだと耐えていたのに
初めて会った時も、当然私はその姿を見ることができなかった。
霞柱が鬼殺隊最強という噂は聞いていたが、異様な圧迫感も張り詰めた空気も感じることはできなかった。
「始めまして。岩の呼吸の使い手と聞いています。これから、どうぞよろしくお願いいたしますね。」
幼い声だと思った。
それに、予想もしていなかったような高い声に驚いた。
まさか、女だとは。
「…泣いているのか」
思わず口にしていた。
「はい?」
これが、私との出会いだった。
今にも泣きそうな声に聞こえたが、その後何を話しかけても無視をされたので意外と拗ねやすいことを知った。
ただの子供だと思った。
自分よりも年上というのが信じられなかった。
しかし、そんな印象は手合わせの時に打ち砕かれた。
どんな攻撃も当たらないのだ。生まれて初めて投げ飛ばされた。そして、力だけでは敵わないことを思い知らされた。
それに、手加減されているのが嫌でも伝わってくる。不快極まりないが、手加減をされなければ瞬殺は間違いなかった。
強い女性だと思った。しかし、弱い人間でもあった。
少し隙をつけばすぐに本音をこぼしてしまうような、脆い存在だった。
顔に何度か触れた。
いつも笑っているからと聞いて驚いたが、本当に口角が上がったままだった。しかし、発せられる声は悲しみがひしひしと伝わってくるようなもので、笑っているとは思えない。
いつからこの関係が始まったのだろうか。私たちは確かな言葉を持ち合わせてはいなかったように思う。
「……お前は、この関係になんと名前をつける?」
私は一度尋ねた。
すぐに拗ねて猫のように何処かへ行ってしまうから、腕の中にしかと閉じ込めながら。
いくら最強の剣士とはいえ、私の太腕から逃げ出す術を持ってはいなかったのだ。
「そうねぇ…」
私の背中に手を回す。
小さく細い腕は背中に背負う『滅』の文字にも届いていない。それがまた愛らしい。
「分からないわ。言葉が欲しいと思ったことがないから。」
「…そうか。」
「あなたは欲しいの?」
私はただ首を横に振った。
そうするしかなかったように思う。