第12章 あなたの残した場所
時は流れる。
無惨討伐後…。
不死川実弥はブラリと歩いていた。
お腹が空いたので、適当な定食屋に入った。
そこには腰の曲がったおばあさんがいて、自分の顔を見るや驚いていた。
「あんた、鬼殺隊かい?」
この廃刀令のご時世、全身傷だらけの人間を見てそう思ったらしい。
おばあさんは注文を聞くと、皿を並べた。
「おばあさん、俺は一人だぜ。」
自分の分を含めて、何と六人分も出された。あとの五人分はいらない。必要ない。
「いいの、一緒に食べてあげてよ。」
「あ?」
「律儀にねえ、私にも産屋敷って人が手紙出してくれてねえ。あらかたのことはわかってんの。」
おばあさんはにこりと笑う。思わぬ名前に不死川は閉口する。
「もう、私の知ってる子はだあれも生きてないんだろう?あ、派手な子は生きてるのか。」
「…。あんた。」
「誰でもいいよ。誰かを座らせてやって。髪の長い女の子みたいなお兄ちゃんでも、体の小さな生意気な子でも、炎色の髪の子でも、誰でもいいよ。」
おばあさんはしばらくしてから出来上がったご飯を運ぶ。
「あ、忘れてた。」
おばあさんは余った五人分のうち、二人分の皿を近くに寄せた。まるで寄りそっているように見えた。
そしてその側にふろふき大根を置く。
「それ、食べていいから。」
「…どうも。」
不死川は不審に思いながら箸を進めた。
「なあ、ここには誰が座ってんだい。」
寄せられた二つの皿を指差して聞く。
おばあさんはにこりと笑う。
「さあ、だって私、名前聞きそびれたから。」
不死川はじっとそこを見つめる。
ふろふき大根から湯気が出なくなる様を、ただ見ていた。
「元気かねえ。ぼんやりとした長髪の坊やと、いつも笑顔の不思議なお嬢ちゃん。」
おばあさんが何気なく呟く。
不死川が手を止めた。
「…何だ、あんたら、ここにいたのか。」
誰にも聞こえないようにそう呟き、箸を進めた。
死体も遺品も秘密も何もかも残さず死んだ、あの女の人を思い出す。そして、いつも頼りない足取りでそのあとをついて行った、瓦礫に埋もれて骨も残さず死んだ一人の少年。
思い出す、思い出す。
鬼がいなければ出会うこともなかった人たちを思い出す。
思い出す、思い出す。
そんな今日も風が吹く。