第9章 霞と音の大学ライフーその弐ー
夏といえば、プール。
「生きてるか?」
人の多いそこで俺は物騒な質問を口にした。それに対して目の前にいる霧雨は肩で息をして答えた。
「多分、死にました…花畑見えました……」
「生き返ってよかったな。」
びしょ濡れの霧雨は、プールサイドに四つん這いになって青い顔をしていた。絵面がそこそこやばいので手を引いて立たせた。
「お前、諦めたほうがいいって。センスのかけらもねえよ。」
「いや!!お願い私を捨てないで先輩!!」
「おいやめろその言い方は誤解を生む。」
周りの連中の目が痛いので、霧雨を連れてさっさと荷物をおいた場所に戻った。
「まあとりあえず水飲めや。」
「すみません…」
霧雨はゴクゴクとペットボトルの水を飲み干した。
「しかし、まさかお前がカナヅチとはなあ…。」
「……別に、苦手なことくらい…」
そう。なぜ今日俺がこいつとプールに来てるかと言うと、泳ぎを教えてほしいと言うからだ。
午前中に来て、もうすぐ正午になるのに全く泳げるようになる気配が見えない。惜しいといかそう言うレベルではない
懸命に泳いでいるつもりなのだろうが、俺には水と喧嘩しているようにしか見えなかった。
それなのにこうして練習しているのは…。
「彼氏様とのデート、明後日なんだろ?」
「うっ…!」
霧雨は顔をしかめた。
全然カップルらしくなかったのに、何だか急に先の展開が見えて来て俺は嬉しかったのだがまさかのこいつがカナヅチ。
それでも諦めず俺に教えてほしいと言って来たやる気は認めてやるが…。
「もう諦めて泳げないから行きたくないって言えよ。」
「そ、それがいいのは分かってますけど…折角誘ってくれたので…。」
「つってもお前、浮き輪もビート板もダメじゃねえか。」
泳げないなら浮き輪で浮いてりゃいいと色々道具を渡したのだが、どれも使いこなせない。
バタ足が破壊的に下手くそなせいでまず前に進まない。浮き輪をうまくつかめずにすっぽ抜ける。ビート板を持っててもなぜか沈む。
もはや八方塞がりである。