第8章 遠く想ふ君たちへ
「なんてことがあったのよ。」
時は巡り、令和時代。
私が話し終わると不死川くんは複雑そうな顔をしていた。
「やっぱり、よくわかんねえな。」
高校に進学したものの、あの子とは学校が分かれてしまった。
不死川くんが木谷さんの話を聞きたいというので話したらこの反応だ。まあ、何でそんなことを聞いてきたのかは察しがつくけど。
から話は聞いていたから。
「何で死んじまったんだよ。」
「さあ…詳しくは知らないわ。後からわかったけど、ひどい怪我だったのよ。」
「俺が柱になってからだろ?」
「えぇ。」
「わかんねェ。怪我したから死ぬなんて。」
不死川くんは真っ直ぐな人。だから、きっと納得できないんでしょうね。
けれど私には何となくわかるの。確信できないから、滅多に口にできないけど。
きっと木谷さんは安心したから死んだの。
新しい風柱が誕生して、自分の役目は終わったと、きっと笑って死んだ。
「……例えどうであれ、褒め称えられるべき死はないわよね。」
「当たり前だろ。」
「でも否定できないの。あのとき、死を選んだ木谷さんを。何でどうしてって今でも思うけど。」
不死川くんは少し考えたあとまた話し始めた。
「それでも生きるべきだろ。生きてたんだ。怪我しても生き残ったんだ。」
「そうね。そうよね。でも、違ったのよ不死川くん。」
「何が違ったんだよ、くそォ…。」
不死川くんがぐっと唇を噛みしめる。
生きててほしい。心からそう願っていた人がある日突然自殺したら。
きっとのことを想っているのね。
「生きたのよ。木谷さんは。生き抜いたんだわ。だから、死んだのよ。」
きっと、きっと。
溢れるばかりの幸せを感じて死んだのだろう。もう生きる必要もないほどの。
その幸せを与えたのはきっと霧雨さんなんだわ。
「俺は認めない」
「そう」
「絶対に」
不死川くんがそう言うと同時に、あの子からスマホに連絡が入った。
『カナエ!今病院ついたよ、目が覚めた優鈴とツーショット!!』
そこに写っていたのは、世界で一番幸せそうに笑うかつての戦友達だった。
私はそっと微笑んで、スマホの画面を暗くした。