第8章 遠く想ふ君たちへ
その日、柱合会議に霧雨は現れなかった。
「お館様。霧雨殿と木谷殿はどうしたのですか?」
宇髄さんが開口一番に尋ねた。
「うん。話は聞いているから大丈夫だよ。」
「そうですか…。」
それから会議は進んだ。
「まず始めに…悲しい報せがある。私も今朝方伝えられてね。今日は会議だから、ここで言わせてもらうことにしたんだ。」
鬼殺隊の当主は重々しく口を開いた。
「数日前、風柱の木谷優鈴が亡くなっているのが発見された。」
全員が言葉を失った。
「死因は首吊り……つまり、自殺だ。遺体はもう埋葬された。」
木谷優鈴。
彼が任務で負傷したのは周知の事実。
しかし詳細は知らされておらず、そのうち復帰するものと思われていた。
だがまさか。
そんなことになるとは誰も思わない。
「木谷様から、皆様宛の遺書が残されておりますので、読み上げます。」
産屋敷家長女の幼い子供が、玉のような瞳を見せて言った。
『鬼殺隊、柱の皆様
僕こと、この木谷優鈴の命はいつも誰かに守られていました。優しい母親、鬼に殺された師匠、僕を庇って死んだ兄弟子。
僕は尊い命の犠牲の上に生きてきました。
守られるのが嫌でした。僕は全てを守り抜きたかったのです。そして、できることなら、あなた達と最後まで。
しかし、僕の最後は幾分かはやかったようで、もはやこれまでです。
鬼殺隊として、鬼を斬る者として、僕は終わったのです。
風柱は今のところ後釜さえないけれど、今まで先人達がしてきたように、僕は後世を信じます。どうか、誰かがこの肩書きを背負うことを祈ります。
僕は、もう終わりました。こんな人間のために、人員をさく必要もありませんので、ここらで先に逝きます。
これから先、更に激しい戦闘になるでしょうが、どうか生き残って、鬼のいない世界で笑ってください。
鬼のいない夜は、きっと星が綺麗で素敵だろうから。夜空を見上げて、刀なんて持たないで、お散歩でも。
どうか、笑ってください。
僕の愛する家族、鬼殺隊の仲間達。
それでは。
木谷優鈴』