第2章 ×柱の人生ーその壱ー
物心がついて言葉を理解し始めたのは9歳とか、そんな時だった。
あまり記憶がないが、なぜか気づけば家族が存在していなかった。
物心がないと自我が芽生えないから記憶がなかった。ここらへんはあやふやだ。
一番古い記憶は、何だか汚い場所を延々と巡っていたこと。そこはどこへ行っても平気で死体が転がっていて腐敗臭がした。
そこにいる自分の体からもひどい臭いがした。
うじやシラミが自分の体からうじゃうじゃ出てきて、そいつらを潰すのに時間がかかった。いつもお腹が空いていたけれど、すぐに慣れた。
初めて“それ”が見えたのは、コバエの群がる死体の着物を漁っていた時だった。死体は金になると知った。ボロボロの着物でも、歯でも髪でも、売れるものは売れる。
頭が痛くなった。初めてのことに地面に倒れたけど、すぐに痛くなくなった。
目の前に雷が落ちた気がして、慌てて空を見た。
しかし憎いくらいに晴れ渡っていて、雷が落ちたようには見えなかった。
その日から何回も連続で雷が見えるようになった。
そして気づいた。
ある方向に向かうとその雷は強く輝くようになり、その反対の方に向かうと光が弱くなった。
何となく、強く輝く方へ向かった。
生まれて初めて綺麗な場所に出た。
どこにも死体がない。皆ぼろ切れじゃなくて、ぴっちりした着物で。ガリガリに細い人もいなくて、驚いた。
そこで俺が異端者だと気づいた。皆がとんでもない目で見てくるから。
けれどどうでもよいことだと思った。
俺がどんなに貧相で、可哀想と呼ぶにふさわしい存在で、後ろ指を刺されなくては生きていけない存在であっても、どうでもよいことだと思った。
何を思っても、どうにもならないことがにはあると、俺はそれまでの人生で見た最も美しく綺麗な場所で思った。