第12章 放課後の保健室(トラファルガー・ロー)
ふわりふわりと白いカーテンが揺れ、心地よい風が部屋に流れる。
静かなこの時間はなかなか訪れない貴重なもので、タンブラーに入れたお気に入りのコーヒーの香りが鼻を擽る。
職場の冷蔵庫に持ち込んだミルクをたっぷりと注いだそれは甘くはないがまろやかで、お茶請けとして先程までこの保健室に居た女子生徒から貰ったクッキーを引き出しから取り出した。
"先生って、カレシいないんですか?"
頬を赤くしキラキラとこちらを見つめてくる女子学生に「いる」と答えたときのショックを受けた顔を思い出してため息をつく。
どうしてか女子生徒にモテてしまい、先ほどの女の子のようにこちらを伺うように好意を見せてくる子が後をたたない。
同年代の男子を狙いなさいと声を大にして言いたいが、別に告白されたわけでもないのでそんなことは言えない。
「またフったのか」
カーテンの引かれたベッドから顔を覗かせた男子生徒を一瞥する。
授業が始まる前からずっと寝てるこの生徒は不良と言うわけではないが、自由気まますぎて扱いが難しく、一番奥の今彼がいるベッドは専用席のように扱われていた。
「フってないよ。告白もされてない」
生徒相手にこんな話も可笑しいが、何度も保健医に恋する女子生徒を見てきた彼には今更だ。
「もう下校の時刻だよ。帰りなさい」
半日授業の今日は、これ以降部活動の生徒しか学校にはいない。
彼はどこにも属していないはずだから帰るのが正しい。
「俺に指図するな」
いつの間に側にきていたのか持っていたタンブラーを横取りされる。
「指図って…私は教師よ」
ひとくち飲まれたそれを奪い返しながら言えば、ニヤリと笑いながら見下ろされ、思わず一歩下がった。