第10章 触れる代償が尽きるまで(トラファルガー・ロー)
「…っ、バカ力!」
「俺を甘くみたな」
そりゃガタイ良い奴らからすれば細身で力なく思われがちだが、海賊として海にでて船長を務める身だ。鍛えていない訳ないだろう。
ダルいながらも自分の体重も手伝って銃口を彼女に捻るように向け、体にのし掛かることで自分と彼女の体の間に固定した。
言わずともセーフティーバーをロックした。
「さて、振り出しだ」
「チッ」
苦々しい顔で舌打ちをされる。
それでもただでは転ばない女は、暗闇で光るローのピアスをつまみ、グレージュの爪を食い込ませた。
そして、冒頭の台詞だ。
「お高い女だな」
「見合わないというなら退いて」
「……フッ。面白ェ女だ」
のし掛かる体をそのままに顔を近づける。
離れるように頭を反らしているが行き着く先はベッド。直ぐに動けなくなり、今度はローを止めようと掴んだままのピアスを引っ張った。
「なにしやがる」
「払うか退くかして!」
「後で渡してやるよ」
「前金制度よ」
「どこのバカが襲うのに金持って来るんだ。手元にある訳ねぇだろ」
「取りに行って」
「その間に逃げようってか」
「………」
「分かりやすく図星付かれてんじゃねぇよ」
それでもグイグイと引っ張るのが鬱陶しい。
いい加減実力行使にでようかと思ったときに、あることを思い付く。
「なら、お前の船賃から引いてやるよ」
「…は?」
「50万ベリー、だったか?あの金塊を換金した時にその分バックしてやる」
「いや、そんな遥か先のこと言われても…」
「決まりだ」
「え、ちょ…」
目に見えて焦りだした女の顎を掴み顔を合わせる。
目を合わせたままベロっと唇を舐めてやれば重なる体が震えたのが分かった。
「流されろよ。そうすれば逆に50万払いたくなるくらいイイ思いさせてやる」
「…遊び人の言葉ね。そこまで言うならやってみなさいよ。もし嘘だったら追加で倍払ってもらうわよ」
「ククッ…」
ピアスを掴んでいた女の手は後頭部へと移り、ゴトンと重たい音を響かせて銃が床に落ちた。