第10章 触れる代償が尽きるまで(トラファルガー・ロー)
「私に触りたかったら50万ベリー払いなさい」
旅をしている女を船にのせた。
理由は何てことなくて、酒場で意気投合したから。シャチ達とも大いに盛り上がり異性と忘れるほど語り飲み明かした朝、唐突に船に乗せろと言ってきたのだ。
目的地は遠く、色々な船を乗り継いできたようで、女ながらにその辺は慣れたようだった。
「やーお前すげぇな」
「どうやったらそんなに釣れるんだよ」
「ビギナーズラック、ってね」
釣りに誘えば意外にも初めてだったようでシャチから手解きを受けて釣り始めたのが数刻前。
いまや彼女らの周りにはバケツが大量に置かれ、ビチビチと色とりどりの魚が押し込められている。
大半を彼女が釣り上げたようだ。
そこそこ腕の立つ彼女は乗せて貰うお礼にと小舟にぎっしりと積み込まれた財宝を見せてきた。
この島に着く前に乗っていた船から奪ったようで、目的地に着いたら全部あげると太っ腹な事を言った。
乗せてもらった上に強奪とは録でもねぇなと言えば襲ってきた奴らが悪い、と鼻で笑った。ちよっと良い思いをしようと下心を出したが返り討ちにあい、しかも財宝まで盗まれた前の船の奴らには同情する。が、財宝はしっかりと頂くことにする。
彼女に貸した部屋へと入る。
皆寝静まった深夜、小さな灯りを持ったローは静かにテーブルにそれを置くと灯りを消した。
前の船の奴らと同じ轍を踏む可能性を自問するが、そもそも同じ結末をたどらせるつもりはない。それにあんな良い女、手を出してみたくなるのが男と言うもの。
すらりと伸びる細い手足にバランスよく出るとこ出た体躯。細い首には小さな頭が乗っていて、猫を思わせる目尻の上がった大きなブルーの瞳が強い光を放つ。品よく紅の引かれたぷっくりと濡れた唇が笑えばゾクリとした熱が沸き上がった。
シャチ達は手を出すには高嶺の花すぎる、と怖じ気づいていたが生憎自分は生まれてこのかたこの顔のお陰か女に困ったことはない。大抵は向こうからすり寄ってくるし、極たまに此方から声かければ歓喜されど断られたことなんてなかった。
そんな自信から彼女の部屋へと忍び込んだ。
丸く盛り上がる布団。意外と寝方は子どもっぽい。塊の上部に彼女の色素の薄い髪が見える。
「起きてんだろ」