第9章 緩やかにいま墜ちてゆく(トラファルガー・ロー)
「ほん、とに…やめて…」
「なんで」
「ンッ…」
耳朶を食んだり嘗めたりされ、しつこく愛撫されていれば早くなる呼吸。
海賊の男にいいようにされてることに腹が立つ。だがそれとは別に奥底からじわじわと上がってくる甘い感覚に、自分自身に対して心底怒りが湧いた。
海賊が死ぬほど嫌い。
それは海軍のみならず自分を知る人ならばおのずと知る事実。
それは過去の事件に起因するのだが、とにかく海賊と名乗る奴らが大嫌いだった。
なのに、過去に関係をもった目の前の男は"旅人"と言い近付いてきて、あろうことかクロエのセックスに対する印象を一から塗り替えるほどの快楽をクロエの身体に教え込んだ。
「これから明日まで時間はあるんだ。楽しもうぜ」
「ぅぁっ…」
胸を外側から揉まれ、耳を犯される。
嘗める音が、この男の低い声が脳を溶かす。
耳が弱いことを覚えていたのか、執拗に繰り返される愛撫にどんどん息が上がっていく。
どくどくと脈打つ鼓動が肌から伝わりそうなほどうるさい。身体がこの男のことを思い出してきたのだ。
フラッシュバックするかのように脳裏にちらつく男と交わった記憶。それは鮮明になるほど下腹部が痺れ、下着にイヤな感触を残した。
「ひぅっ…」
ぴんっと軽く弾かれた胸の頂に背が浮く。
漏れだす声がイヤで強く唇を噛んだ。
男の唇は首へと下がり、顔を背ければ、筋を舌でなぞられる。
ゾワゾワと身体が震え、じゅ、と吸われたときには大袈裟なほど身体が揺れた。
「ゃ、めっ…」
はっはっと短い呼吸の合間に出た声のなんと頼りないことか。
泣きたくないのに海賊に言いようにされる不甲斐ない自分と、反応してしまう身体に涙が出そうになる。
ちりっとした痛みが数ヶ所、甘噛みされた箇所も多々。べろべろ嘗め回され、表面上肌がひんやりとするのに中がぐつぐつと熱くなる。
「ほんと耳弱ェな」
鎖骨にそって噛まれ、端っこでじゅっと吸われる。
その間手はもにもに胸を揉み続け、その感触を楽しんでいた。