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ONE PIECE短編集

第9章 緩やかにいま墜ちてゆく(トラファルガー・ロー)


海軍本部少将の肩書きをもつ女将校であるクロエは本部にある自分の執務室へと足早に向かっていた。
今しがた自分に下された命令に憤っているのだ。

(ありえないっ)

カツカツとヒールの音がまだ夕暮れを迎える前の廊下に響く。
すれ違う海兵達が若干顔を青くしながら道を譲っているのだが、それには気付かずにひたすらに足を動かしているクロエは、どう切り抜けようかと考えあぐねていた。

命令は"本日から明日にかけ、トラファルガー・ローと共に行動せよ"という簡潔なもの。
臨時召集の医療技術の提供に対する報酬として、上官が要望をのんだとか。

(まさか……、)

数年前の"あの時"を覚えているのか…。
いや、だとしても今さら会う理由がない。
ならば偶々私の何かを必要としたために呼ばれたのだろうか。
わからないが組織に属している以上、命令ならば従わなければならない事に舌打ちが出てさらに足を早めた。

(冷静に…事務的に…必要最低限の会話で…)

暗示のように頭の中で繰り返し唱えながら執務室の鍵をあけた。

「よぉ、遅かったなクロエ少将」

何時も外出の際は施錠されているそこ。
それなのに応接セットのソファに腰かける男に目頭を押さえた。

「…どうやって」

絞り出した声に男は"ROOM…"と呟き青いサークルを出して能力を見せた。

「不法侵入ですよ」
「海賊なもんで」

立て掛けてあった刀を手に取り、数年前より格段に海賊にふさわしいあくどい笑みを浮かべた男に溜め息を付く。
デスクに持っていた書類を置き、イスに腰掛けた。
一挙一動を嘗めるように見てくる男を睨み返し、持ち帰ってきた書類の束から一枚を手に取り相手に見えるようデスクに置いた。

「ご要望通り、現時刻より明日終日、王下七武海トラファルガー・ローとの共同作業に海軍本部少将クロエが従事することを先だっての任務の報酬とする。相違ないか」
「あぁ。要望通りだ」
「ならばサインを」

渡した羽ペンを受け取り墨に浸してサインするトラファルガー。
続けて自分もサインし終わった書類を上官行きのラックに仕舞うと、男に向き直った。

「…手を借りたいとの申し出の内容を聞こうか」

幾分か自分より背の高い男を見上げれば、深く被った鍔の下で薄く笑っている。
数年前の"あの時"に見た顔。イヤな予感しかしない。


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