第7章 その瞳にうつるのは❄︎【時透無一郎】
「この辺に男と女の鬼が出るって聞いたんだ。君かと思ったけど違う鬼かな」
呟くように言うと、女鬼がぴくりと反応する。
「ふーん…これは君かな?もうひとりの鬼はどこ?」
女鬼は追い詰められ、渋々といった感じで口を開く。
「…そうよ、あたしと夫よ」
「夫?」
女鬼は聞いたことに答えた。
人間のときからの夫婦で、女鬼の身体が弱く死ぬ前にとある鬼が現れ鬼にしてくれた。
女だけだと可哀想だからと、夫も鬼にしてくれた、と。
夫婦で鬼になり近くの村や町に行き、人間を襲い喰っていたと。
「…今日、人間を見つけたら慰みものにしてから殺すはずだったの」
「慰みもの?君、夫がいるんでしょ」
「えぇ、いるわ。あたちたちの血鬼術よ。喰べる前に血鬼術を使って慰みものにしてから喰べるの。人間の精液も愛液もあたしたちにとって、すごく栄養があるの」
そう言う女鬼は恍惚した眼差しで僕を見た。
「ふふふ、あなた若いけど良い男ね?どう?1度あたしとしてみないかしら?」
そういうと女鬼は胸元をはだけさせ、豊満な胸を寄せる。
「興味ないよ、そんなこと」
そういうと僕は日輪刀を握り直し、女鬼の頸目掛けて日輪刀を振り下ろす。
女鬼の頸がころころと地面を転がった。
「残念だわ。…ふふふ、1週間あなたは地獄を見るわ。せいぜい頑張ることね」
そう言うと、灰の様に女鬼は跡形もなく消えた。
「…?どういうこと?…考えるだけ無駄か、鬼の言葉なんて」
この時の僕はそう思った。
まさか、あんなことになるとは思いもしなかった。
❄︎
森の中腹を少し過ぎた頃、鬼の気配を感じ腰の日輪刀に手を伸ばしいつでも抜けるようにする。
がさり…
音の聞こえた方を見ると、そこには男鬼が居た。
「美味そうな女だなぁ。良い身体付きだなぁ」
男鬼はわたしの身体を、頭のてっぺんから足の先まで舐め回すように見ると舌なめずりをする。
『あなたがこの辺の人を襲う鬼ですか?男女の鬼と聞きましたが、どうやら違うようですね』
わたしは鞘から日輪刀を抜くと、男鬼に剣先を向ける。
男鬼は怯むことなく、ニタニタ笑っている。
「あぁ、その鬼は俺と嫁だ。今日は別行動しててな」
『そういうことですか。なら、お話はこれで終わりね』
「話はこれで終わりだが、身体同士の話はこれからだな」