第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
椿姫は頬を紅潮させ、目には涙を浮かべ、身体を震わせていた。
その反応が愛らしくて、少しいじめたくなってしまう。
「椿姫」
椿姫はぴくりと身体を震わせ、ゆっくり視線を合わせる。
その瞳には、少しの恐怖が滲んでいた。
「椿姫、手荒なことはしない。祝言を挙げ、夫婦になった。俺は子孫を残し、蛇神の血筋を残さねばならない」
俺は椿姫のその瞳を見据えると、少しだけ恐怖の色が消えた。
「急な話だが、俺は椿姫との子どもを残したいと思っている」
その一言に椿姫の頬は先ほどと比べ物にならないくらい、赤く染まった。
『なっ!?』
慌てる姿は年相応で愛らしいと思った。
俺は椿姫の手を解放し、椿姫の上から退いた。
「…無理に祝言を挙げ、子を成せと無理強いをしてしまったな…今更だが…」
俺は視線を逸らし、そう言うと椿姫に唇を塞がれた。
『…わたしだって…!慕っていない人と祝言は挙げないわ!尻軽だと思わないことね!!一緒に生活して、あなたの良いところをたくさん見つけたの…だから…そう言わないで…』
椿姫は勢いに任せてそう言い始めたが、我に返ったのかどんどん語尾が小さくなっていく。
「椿姫は、俺のことを好いていたのか…?」
俺はそれに驚きつつもそう聞くと、椿姫は耳まで赤く染めると
『…そうよ…わたしは、蛇神さまをお慕いしているの…だから…っ』
そう言うとふいっとそっぽを向いてしまった。
俺はその言葉が嬉しくて、恥ずかしくて、なんとも言えない気持ちになった。
俺は椿姫のはだけたままになっていた白無垢の合わせを簡単に合わせ、椿姫の腕を引き起き上がらせると、そのまま抱きしめた。
「あぁ…俺は、誰かからそう言われたかったらしい」
俺は椿姫の身体を、少しだけ強く抱きしめた。
椿姫は、初めは戸惑っている様子だったが、おずおずと俺の背中に腕をまわし、きゅっと抱きしめてきた。
俺はしばらくそのままいたが、椿姫を横抱きにすると寝屋まで運び、敷布団の上に静かに降ろした。
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