第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
『えっと…それって喰われたり、殺されることよね?』
「ふっ…まだ分からんのか、俺の花嫁は」
蛇神さまは優しく微笑むと
「体を差し出すこととは…そうだな…寝屋事と言ったら分かるか?」
と何食わぬ顔で言った。
『!?』
「なにかおかしなことを言ったか?」
『え、さっき祝言は7日後、それまではお互いを知る期間って…』
「あぁ、そのことか。お互いの"身体の相性"を知る期間、だ」
『!?』
わたしの様子を見て蛇神さまはくつくつと笑った。
「顔を赤くして…可愛らしい。まぁ、半分は冗談だ」
そういうと、立ち上がり窓を開けた。
そよそよと、心地の良い風が頬を撫でた。
「…生贄としてここに来て、帰る場所はないだろう」
蛇神さまは振り返ることなく、そうぽつりと呟いた。
『そう…ですね、わたしには帰る場所はありません』
「これからどうするか決まるまで、ここにいるといい。本当に俺の花嫁になるか、この近くの村に降りてそこに住むのもいい。この神殿は、いまは俺の住処だ」
そう言うと、ゆっくりと振り返りわたしを見た。
漆黒の髪の毛が、さらさらと風に揺れていた。
そうしてわたしと蛇神さまの変な共同生活が始まったのだ。
❄︎
わたしは白無垢から、普段着ていた着物に着替えた。
その姿を見た蛇神さまは
「ほう…」
と言うと、どこかへ姿を消した。
しばらくして戻ってきたと思ったら、たくさんの着物や帯、簪などの入った箱を数箱持ってきた。
『これはどうしたんですか?蛇神さま…』
わたしは恐る恐る聞くと、蛇神さまは微笑むだけだった。
「ここに来るのにある程度の物を捨てて来たのだろう。持ってきた荷物も最低限だった様だし」
蛇神さまはそう言うと、着物などが入った荷物をわたしの部屋に運んだ。
「持ってきた着物などは処分するといい。他に必要なものはあるか?あるなら言うといい。全て揃えてやろう」
と、言い残し部屋を出て行った。
わたしは呆気にとられていたが、我に返り運ばれた箱の中を見るとたくさんの着物や帯、羽織りなど必要なものが一式揃っていた。
『本当にこれどうしたのかしら…』
そう思いつつも、わたしは心が躍るのを抑えられずにいた。
❄︎