第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
わたしたちは、だだっ広い神殿から、移住スペースになっているさほど広くない居間に移動した。
そこに着くと、男は
「お茶を用意しよう、花嫁はここでくつろいでいるといい」
そういうと居間に入らないうちに台所へ向かった。
わたしは窓の近くに腰を下ろし、いい加減邪魔な綿帽子を取ると近くに置いた。
窓の外を見ていると、男はお茶とお茶菓子を持って戻ってきた。
「待たせたな。こっちに来るといい」
そういうと机に湯呑みやお茶菓子を置き、優しく微笑んだ。
『あ、はい』
わたしは促されるまま、机に近づきお茶が置かれた場所に座った。
「そんなに固くなるな、取って喰おうなどと思っとらん」
くつくつと笑うと、ひとくちお茶を啜った。
「さてと。自己紹介とやらをするか。俺は蛇神と言われている。本当の名は…いや、やめておこう」
『蛇神さま…』
「あぁ、蛇神だ」
そういうと、またひとくちお茶を啜った。
わたしは、呆気に取られ固まっていた。
「俺の花嫁はまだ思考が追いついていないらしいな」
くつくつと笑い、わたしに視線を向けた。
右目は淡い黄色の瞳、左目は深く澄んだ緑色の瞳。
肌は白く、艶やかな漆黒の髪の毛が映える。
「さて、まだ思考が追いついてないと思うが本題だ」
男…蛇神さまはそういうと、表情を引き締めた。
「祝言は7日後に挙げる。それまでは、お互いを知る期間にしよう」
『え…?』
「どうかしたか?」
『え、えっと…わたし、生贄ですよね…?食べたり、殺したりしないんですか…?』
「なぜだ?嫁入りしてきた花嫁を喰ったり、殺すわけがないだろう。あの村の昔からのこのやり方が気に食わないが…」
蛇神さまはほんの少し渋い顔をしたが、一瞬で優しく微笑んだいた。
「先ほども言ったが俺は本当の蛇神じゃない。先代の蛇神も人間を喰ったり、殺したりはしていない。俺は、純粋な蛇神じゃない」
『純粋じゃない…?それって…混血…?』
「あぁ、俺は純粋な蛇神と人間の間に産まれた混血児」
『先代の蛇神さまの子ども、ってこと…?』
「そうだ、俺は贄として連れてこられた人間と蛇神の間に産まれた。だから完全な蛇神ではない」
蛇神さまはにやりと笑い、お茶をひとくち啜った。
「雨乞いの儀式とやらは蛇神に身体を差し出す事を指す」