第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
そうして、蛇神さまへの嫁入りが完了するのだ。
その神殿には生活するには十分なものは揃っているし、簡易な台所、風呂、トイレもある。
結局は死ぬための準備期間なわけなのだ。
❄︎
考え事をしているうちに神殿に到着したらしい。
外から神官さまの声が聞こえた。
ゆっくりと簾が開けられ、神官さまのシワシワな手が差し出され、わたしはそこに手を添え神輿から降りた。
『すごい…』
わたしはこの場所に来るのは初めてだが、とても立派な建物だった。
小さいと聞いていたが、わたしからすると十分な大きさがあるように思えた。
私が惚けているうちに簡単な化粧直しや、ほんの少し乱れた白無垢を数人の巫女が直してくれた。
『ありがとう』
わたしは巫女たちにこれが最後だとお礼を言った。
『神官さま、お世話になりました。どうかお元気で』
わたしはそういうと、頭を下げ神殿にゆっくりと歩いて行き、神殿の扉を開けた。
❄︎
「ほう…お前が花嫁か」
わたしは声がした方を見た。
そこには鼻から上しか隠れていない、狐の面をした人がいた。
その狐の面は派手で煌びやかなデザインで、装束もお洒落だった。
その人はそのお面と対照的な格好をしていた。
『え…っと…』
わたしはその状況がよく飲み込めなかった。
「お前が花嫁か、と聞いているんだが?」
そう言うと、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
『花嫁というか…生贄です』
わたしがそう言うと、男はくつくつと笑いそのお面をとった。
『!!』
男は綺麗な艶やかな黒髪、左右の色の違う瞳、口元にちらりと覗いた鋭い犬歯。
そして、魚のような蛇のような、淡い水色や白い鱗が装飾品かのように額や首筋、手などにあった。
「ふっ…醜いだろう、この姿が」
男はそういうと自嘲気味に笑った。
「これが蛇神と崇め、讃えられた本当の姿だ。…といっても、俺は本当の蛇神じゃないが」
男はそう言って外した狐の面を指先で弄んでいる。
『本当の姿じゃない…?どういうことですか…?』
「そうだな…花嫁には話すべきか。なら、昔話でもしようか」
そういうと男は場所を移動しようと言い、わたしはそのあとをついて歩いた。
❄︎