第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
『…わたしは、わたしの使命を全うするだけよ』
姉から視線を逸らし、呟くようにその言葉を吐き出した。
「…ごめんなさい」
姉は一言、小さな声で呟くと部屋から出ていった。
その部屋にはなんともいえない空気が漂っていた。
❄︎
あれから4日が経った。
家に居辛いため、わたしは近くの河原に散歩に来ていた。
その理由は簡単だ。
わたしは変わらない態度で過ごしていたが、両親や兄弟たちがよそよそしい態度をとるせいで疲れていた。
『はぁ…』
わたしだって好きで生贄になったわけではない。
それなのに、腫れ物に触るかのような態度で接してくるのはどうにかならないものか…。
そう物思いに耽っていると、結構な時間が経っていて辺りはすっかり暗くなっていた。
『あ…もう帰らなきゃ…』
わたしは、もう何度目かわからないため息をつくと立ち上がり、とぼとぼと歩き出した。
家に帰ると、両親が心配していたらしく少し叱られた。
そう、理由は"大切な贄がいなくなると困る"ため。
もう、わたしを娘と見ていなかった。
わたしは、その日からほとんど部屋から出ることなく自室で過ごした。
❄︎
いつのまにか蛇神さまへの嫁入りの日になってしまった。
その日はいつもより早く起きて、嫁入りの支度を始めた。
白無垢を着せられて、可愛らしく化粧をされて。
あぁ、本当にわたしは嫁入りをするのね…
と、心の端で他人事のように思った。
ついに家を出る時刻となり、外に出ると両親や兄弟がわたしを待っていた。
「椿姫…」
姉が少し気まずそうに名前を呼んだ。
『姉さん、幸せになってね。お父さま、お母さま、みんな、どうかお元気で』
わたしはそういうと微笑み、用意されたいた神輿に乗り込んだ。
外から簾を下ろされ、しばらくすると神輿がゆっくりと動き出した。
目指す場所は山奥にあるさほど大きくない神殿だ。
そこには大きな滝や大きな川が近くにあり、その近くには蛇神さまを祀っている祠がある。
その近く…といっても、災害が起きても被害がないような場所にその神殿があるのだ。
神殿にしばらく住み、雨乞いの儀式を7日間し、それから命を断つのだ。