第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
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『はぁ…』
わたしは、荷造りの手を止め母に言われた言葉を思い出すたびに、何度目か分からないほどのため息をついた。
そう、それは母が言った "嫁入りが決まった" 、という言葉。
わたしは "蛇神さまへの贄に決まった" と、遠回しに言われたのだ。
嫁入りは1週間後に決まったらしい。
ここ最近、雨が少なく農産物がうまく育たないため、話し合いをしていた。
近々あるだろうとは思っていたが、まさか自分だとは思わなかった。
わたしには2歳年上の姉がいる。
嫁入りに選ばれるのは姉だと思っていたのに、実際はわたしの方に白羽の矢が立ったらしい。
母が言うに、姉に縁談が来たとかなんとか…
それなら歳の近いわたしになるのもおかしくはないか…などと考え込むうちに、辺りは薄暗くなり始めていた。
『…嫁入り、か…』
わたしは、またため息をつくと止まっていた手を動かし始めた。
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粗方、必要のないものなど片し終わった。
それにしても物が少ないなぁとわたしは肩をすくめた。
必要なものはほんの少しで、小さな荷車に収まるほどになり、当たり前だが捨てるものの方が多い。
一息つくと、廊下の方から声がかけられた。
「椿姫…?少しいいかな」
姉の声だ。
わたしは少し考え、すぐに
『えぇ、少し散らかってるけれど…』
と言いつつ、襖を開けた。
そこには、少し気まずそうな顔をした姉が立っていた。
「椿姫…」
『このことは姉さんのせいじゃないでしょう。謝らないでちょうだい』
部屋に入ることを促し、わたしは姉に背を向けてそう言った。
「そう…よね…。嫁入りが決まる少し前に縁談が来ていたの」
姉はそう言ってから座った。
わたしも姉の向かい側に座り、お茶を入れ姉の方に出す。
「わたしは断るつもりだったのよ。そろそろ嫁入りがあると思っていたし…でも、いつの間にか決まっていたの…」
姉は俯いていた。
『…その話をして、わたしにどうしろっていうの?怒ればいいの?仕方ないって言えばいいの?わたしは、雪柳の家に産まれた娘よ。ほとんどの娘が贄にされてきた。変えようのない事実だわ』
わたしは一気に話したせいであがった息を整えるかのように、数回深呼吸を繰り返した。