第5章 蛇神さまに嫁入りします【伊黒小芭内】
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異類婚姻
人間以外の生物と人間が結婚することを、異類婚姻という。
わたしは蛇神さまに嫁入りをすることが決まった。
これは逃れようのない宿命なのだ。
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わたしは雪柳の巫女として産まれた。
代々、災いが起こると贄として捧げられる巫女として、わたしたち姉妹は産まれた。
わたしたち一族は、女の子が産まれると贄として育てられる。
ただ、贄として育てられるわけではない。
きちんと教養を身に付けさせられるのだ。
稀にだが、嫁がされることがあるからだ。
男の子は雪柳の血を継ぐ子どもを求められる。
それもたくさんの子どもを。
丈夫に産んでくれる嫁を探し、子どもを産ませる。
子どもを産めない嫁はいらないと離縁を言い渡され、新しい嫁を連れてこられる。
わたしたち一族はそう育てられたのだ。
わたしの運命は贄に捧げるか、ごく稀に嫁ぎ、子どもを産み育て、子孫を繁栄させること。
それだけだ。
そして、その贄を “嫁入り” と呼んでいる。
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「椿姫」
部屋の外から声をかけられた。
『はい』
わたしは返事をしてから部屋の襖をあける。
そこには、母が神妙な面持ちで立っていた。
『お母さま…?どうしたのですか?』
わたしは部屋の襖を開け、母に中に入るよう促した。
母は机の向かい側に座ると、しばらく俯いていた。
心做しかその顔色が悪いように思える。
どれくらい時間が経ったか分からないほど、それは長く感じられたがおそらく一瞬のことだったのだろう。
母が顔を上げると、覚悟を決めたような表情を浮かべ、それを見たわたしは悟った。
その言葉を聞きたくない、そう思いつつも指の先も口もこれっぽっちも動かなかった。
「椿姫、あなたの嫁入りが決まったの」
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