第4章 蛇柱さんはねちっこい【伊黒小芭内】
『ふふふ…小芭内さんは甘えたさんですね』
椿姫はころころと笑った。
俺の前でふにゃりと笑う椿姫のその表情が好きだ。
「あぁ、お前が愛おしいからな」
そう言い、椿姫の小さな身体を抱き寄せた。
あぁ…この時間がずっと続けばいいのに…
柄にもなくそう思った。
これが本当になるなどと誰が予想できようか。
このときは、知るよしもなかった…
❄︎
数日後、わたしと師範は合同任務があった。
師弟同士のため、他の人よりも同じ任務に赴くことが多い。
今回もそれなのだ。
「椿姫」
師範に呼ばれ振り向くと、師範はなにか言いづらそうな表情を浮かべていた。
『師範…?どうしたんですか?』
師範に近づき首を傾げる。
師範ははぁぁ…と長いため息をつき、口を開く。
「今日の任務は…夫婦役だそうだ…」
『はい?』
わたしは、ぽかーんと阿呆な顔をしていたのだろう。
師範が大丈夫か?と肩を揺さぶった。
『え?あ、あのっ!夫婦役って聞こえましたけど…気のせいですよね?』
「いや…気のせいではない。夫婦役だ」
これは…前途多難です…。
❄︎
気がつくととある栄えた町まで来ていたらしく、甘味処に居た。
『あ…あれ…?』
「どうした?椿姫」
近くにいる師範は…小芭内さんは、いつもの隊服ではなく着物を着ていた。
よく見るとわたしもよそ行きの着物を着ていた。
『あれ…?いつ出かけましたっけ…?』
「大丈夫か、椿姫…」
小芭内さんの浮かべる表情は、どこかわたしを可哀想なものを見るような目だった。
『あ、だっ大丈夫ですよ!?まだちょっと…飲み込めていない、というか…なんというか…あはは…』
わたしは戸惑いの表情を浮かべる。
「たしかに、戸惑うのは分からなくもないが…」
小芭内さんは困ったように微笑む。
「この任務は元々、俺たちが行く任務ではなかったんだ」
『えっ?』
甘味処の女将さんが、お茶と桜餅を運んできた。
わたしが呆けていた間に小芭内さんが頼んだのだろう。
それを受け取り、小芭内さんの次の言葉を待つ。
「これは胡蝶と冨岡が受け持つ任務だったんだが…」
小芭内さんは額に手を当て、大きなため息をついた。
その続きを言わなくてもなんとなく…予想はつく。