第1章 幸せのかたち【伊黒小芭内】
小芭内さんは新婚ということで、余程のことがない限り数日間お休みになった。
『ふふふ。夫婦水入らず、ですね』
「あぁ、お館様には感謝しないといけないな」
『そうですね』
小芭内さんのお屋敷に戻り、わたしたちは寄り添うように縁側に座っていた。
『幸せ、ですね』
「あぁ…」
穏やかに時間が過ぎていった。
❄︎
『小芭内さん…今日は…えっ…と、初夜…です…どう、しましょうか』
夕餉を食べ終えて、湯浴みの準備をしようと立ち上がろうとしたときに、椿姫からそう言われた。
祝言を挙げなかったとしても、今日は椿姫が言うそれだろう。
「あぁ、椿姫。そうだな」
俺は椿姫に近づき、そっと抱き寄せると耳元に口を近づけた。
「椿姫、あとでゆっくり頂こう」
身体を少し離すと、頬を真っ赤に染めた椿姫が潤んだ瞳を上目遣いで見ていた。
『っ……!……は、ぃ…』
俺の嫁はどうしてこんなに可愛いんだ…内心でそう思いつつ、何事もないような顔で椿姫から離れた。
「湯浴みの準備をしてこよう。椿姫、少しゆっくりしていると良い」
俺はニヤリと笑うと居間を出た。
❄︎
『は、はぁ……ドキドキした、ぁ…』
わたしは先程のやりとりを思い出した。
ぎゅっと抱きしめられた身体に触れる細いけど、筋肉がしっかりある男性らしい身体付き。
ほんの少し目を細めて、流し目でわたしの瞳を覗く色の違う綺麗な瞳。
身体を離したときの、ほんの少し優しく微笑む顔。
『(…こんなんじゃ心臓がもたないです…っ!)』
赤くなった頬を冷まそうと、手で仰ぐが効果がないように思える。
あんなに色っぽい小芭内さんは初めて見た気がする。
『…そんなところも大好きです、小芭内さん』
胸に手を当てて、ぽつりとつぶやいた。
❄︎