第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
あれから夕食、子どもたちの湯浴み、寝かしつけを済ませた椿姫は手にお茶のセットを持っていた。
『すみません、こんな時間まで…新しいお茶です、どうぞ』
急須から湯呑みにお茶を注ぐと、俺の前に出した。
『…聞きたいことはわかっています。ですが、わたしから言いたいことはありません』
椿姫は俯いていた顔をあげると、意志のある視線で俺を見た。
「じゃぁ俺からの質問に答えろ。あの子どもは俺の子どもだな?椿姫」
椿姫はほんの少し逸らした。
これはおそらく肯定。
「あの日の柱合会議のとき、気づいていたんじゃないのか?いつもならもっと早く来ているお前が1番最後だった。あの日、どこかふらついていて、具合が悪そうだった。あのあと、椿姫の姿が見えなくなった」
それでも椿姫は口を開かなかった。
「お館様から、椿姫は具合が悪くなったから鬼殺隊を辞めた、そう言われた。胡蝶からは、お前にもう会うなと言われた。あのときの俺は、この気持ちに気付いていなかった。お前が…椿姫がいなくなって、気付いたんだ…」
俺は手のひらに力を入れる。
「椿姫、俺はお前が好きなんだ。どうしようもなく…あの日、この気持ちは分からなかった。ただ、椿姫に俺以外の奴に触れてほしくなかった。…俺は穢れているのに、そう思ったんだ」
『………』
「だから、椿姫に最後まで求められたことが嬉しかったんだ。あぁ、生きていて良かった、と。椿姫がいなくなって、俺が!どれほどお前に会いたかったか!」
俺は椿姫に近づき、力一杯抱きしめた。
「椿姫…俺は椿姫が愛おしい。死ぬまでずっとそばにいて欲しい。子どもたちの父親でいさせて欲しい」
『…っ』
椿姫は身体を震わせると、目の淵から一筋の涙が溢れた。
『っ…わたしもっ、小芭内さんがずっと愛おしかった…っ!本当は言いたかった…でも、言えなかった…』
椿姫は俺の羽織りをぎゅっと握りしめると、堰を切ったように溢れてくる涙をそのままに泣いていた。
❄︎