第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
ある日の買い物の帰り道。
琥珀と翡翠と手を繋いで歩いていた。
突然、琥珀が手を離し走り出した。
『!?琥珀っ!』
わたしは翡翠を抱き上げ、琥珀を追いかける。
『琥珀っ!待って!』
子どもを抱っこしながら、人混みを追いかけるのは容易ではない。
背も小さく、すばしっこい子どもを追いかけるが、簡単には捕まえられない。
『琥珀!待って!』
琥珀は男の人にぶつかり、尻餅をついた。
『琥珀っ!』
やっと追いつき、琥珀の元へ駆け寄った。
『琥珀!駄目でしょう!ひとりで行ったら!』
わたしはぶつかった男の人に視線を動かし、目を見開いた。
『ど…して…』
「椿姫…」
小芭内さんだった。
わたしは頭を下げると、ふたりの手を引き家の方へ歩き出した。
どうして…どうして、ここに…?
わたしの心の中はそれでいっぱいだった。
「椿姫!待ってくれないか」
小芭内さんはわたしの腕を掴んだ。
わたしは周りからの視線に耐えられなくなり、
『…ここではあれなので、家までいらしてください」
そういうと、琥珀と翡翠の手を引いて歩き出した。
小芭内さんは少し離れたところを歩いてついてきているようだった。
❄︎
ほぼ無言だった、気まずい空気だったが無事に家に到着した。
『少し散らかっていますが、どうぞ』
椿姫は俺をお茶の間に通した。
子どもがいる割に綺麗に片付いている部屋だった。
「あぁ、すまない。…椿姫」
俺は椿姫に詰め寄った。
「どうしていなくなった?」
椿姫はたじろぐ様子を見せ、視線を彷徨わせる。
「ママーっ、だぇー?(誰?)」
小さい方のひとり、おそらく男だろう。
よく見ると黄色と青色の瞳の子どもが、椿姫にまとわりつきながら聞く。
もうひとりは髪をふたつに結んでいるから女だろう。
こっちも青色と緑色の瞳の子どもは、椿姫の後ろに隠れるようにこちらを見ていた。
椿姫は困ったように笑みを浮かべるだけで、なにも言わなかった。
『…小芭内さん、お時間大丈夫ですか?よければご飯食べて行きませんか』
椿姫は少し視線を彷徨わせながら言った。
俺は迷うことなく
「あぁ、大丈夫だ」
一言答えた。
❄︎