第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
あれからしばらく泣いていた椿姫は、顔を上げると頬を赤くしながら
『あまり…顔を見ないでください…』
手で顔を隠してしまった。
たしかに泣きすぎて目の周りが赤くなっている。
「ふっ…どんな椿姫でも可愛いと思うが?…それに、椿姫」
俺は椿姫の手を顔から離すと、手を握り椿姫の目を見た。
「もう隠すことはないだろう。…椿姫、祝言をあげよう」
椿姫は大きく目を見開いたかと思うと、大粒の涙を流しながら頷いた。
『っ…はいっ…!』
椿姫は俺に抱きつくと、俺は椿姫を力一杯抱きしめた。
❄︎
後日談
椿姫と琥珀、翡翠の3人は俺の屋敷に引っ越してきた。
引っ越す前にお館様のところに行き、挨拶を済ませた。
お館様はこうなることを分かっていたかのような反応だった。
椿姫は、
『時折、あまね様やしのぶさんが様子を見るために訪ねてきてくれていたんですよ。お館様からは定期的に文が届きましたし。みなさんに支えてもらっていました』
と微笑みながら教えてくれた。
琥珀はすぐに、翡翠は時間がかかったが俺に懐き、"パパ"と呼んでくれるようになった。
そして、俺の屋敷は賑やかになった。
日替わりで椿姫や子どもたちに会いにくる柱の面々がいるからだ。
椿姫は蝶屋敷に通い、子守りをしながら蝶屋敷の手伝いをしている。
それを支える胡蝶や蝶屋敷の子どもたちには感謝しても仕切れない。
俺は遠回りをしてこの気持ちに気付いたが、椿姫は最初から知っていたんだと思う。
俺は幸せだ。
胸を張って言い切れる。
おかえり、愛しい人
❄︎
Fin