第15章 しあわせのクローバー【嘴平伊之助】
椿姫を想い続けて何年経ったかも忘れた。
大正時代、椿姫を失いアオイが俺を支えてくれた。
アオイは
「私は伊之助さんが好きです。椿姫さんの事を好きなのは知っています。椿姫さんの代わりになりたいと思っていません。でも…伊之助さんを支えることを許してください」
と言って、ずっとそばにいてくれた。
アオイを利用していた自覚はある。
いつしかアオイ自身を見て、好きになっていた。
完全に椿姫を忘れることはできなかったが、それをアオイに伝えるとアオイは笑って
「知ってますよ。亡くなってしまった人には勝てないことくらい。私は2番目でもいいんです。伊之助さんを支えられるなら」
そう言った。
アオイに最初から最後まで甘える形だったが、祝言を挙げ子宝にも恵まれた。
そして俺は歳を取って死んだ。
俺は生まれ変わって、ここにいた。
12、13歳の頃に大正時代の記憶を思い出し、周りには知っている人間がたくさんいて戸惑うと同時に、椿姫にも会えるんじゃないかと思うと同時に探す日々が始まった。
15歳、高1になってやっと椿姫と巡り会うことができた。
あの頃と同じ歳で、服装が違えどほぼ変わらないあの頃の椿姫がそこにいた。
俺と目があった瞬間、目を大きく見開いたと思ったら悲しそうに、それでいて優しく微笑んだ椿姫は記憶があるんだとすぐにわかった。
「なんで!お前は…!!」
椿姫にそう怒鳴るように言うと、椿姫は困ったような表情を浮かべ
『うん、ごめんね。伊之助くん、約束守れなくて』
と謝る。
俺はあのときと同じぶっきらぼうに「…ん」と言って、椿姫の身体を抱き寄せるとぎゅっと強く抱きしめた。
これから離れ離れにならないように、と。
再会したその日から俺たちは付き合い始めた。
好きな食べ物や好きなこと、苦手なことあの頃話せなかった思い出話に花を咲かせた。
喧嘩をして泣かせたことも、椿姫と愛し合ったこともある。
あのとき、できなかったことをたくさんした。
そして俺たちは高校卒業と同時に同棲を始めた。
広いアパートに引っ越して、これからの新生活に心弾ませた。
❄︎