第15章 しあわせのクローバー【嘴平伊之助】
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「なぁ、椿姫」
伊之助くんがどこかぶっきらぼうに声をかける。
それに振り返ると、頬を赤く染めた伊之助くんが無愛想に「んっ」と翡翠色のリボンのついた四葉のクローバーと白詰草の小さな花束を差し出していた。
『どうしたの?これ』
わたしはそれを受け取り、そう聞くと伊之助くんはそっぽを向いたまま
「…しのぶにこれの花言葉を聞いたんだ。だから…お前にあげたくて」
そう言う伊之助くんにわたしは嬉しくなって抱きついた。
『ふふふ、ありがとう!』
「!…おう」
伊之助くんはわたしの背中に腕を回し、優しくぎゅっと抱きしめた。
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わたしは前世の記憶がある。
その記憶は大正時代で、鬼狩りをしている記憶だ。
小さい頃から夢を見ていた。
女の人が刀を持ち、怪我をしながらも鬼の頸を斬る怖い夢。
その夢はとてもリアルで、現実に起こったことのようで…その夢を見るたびによく泣いていた。
いつの頃からかそれが夢ではなく、わたしの前世の記憶だと気づいた。
身体が成長するにつれて、その女の人が顔も身体付きも自分によく似ていることに気づいた。
中高一貫キメツ学園に入学して、わたしはとても驚いたのをいまでも覚えてる。
だって、夢に出てきた人が生まれ変わってそこにいたから。
わたしのように記憶のある人もいたけれど、当たり前だが記憶がない人もいるようだった。
同じクラスに大正時代の同期だった炭治郎くん、伊之助くんがいて、ひとつ上の学年にカナヲちゃん、善逸くん、玄弥くんがいた。
彼らは全員記憶があって、伊之助くんはわたしを見るなり
「なんで!お前は…!!」
なんて怒鳴られてしまった。
怒られる原因は覚えていたから、
『うん、ごめんね。伊之助くん、約束守れなくて』
と謝ったら、あのときと同じぶっきらぼうに「…ん」と言って抱きしめてくれた。
わたしと伊之助くんは大正時代は付き合ってはいなかった。
鬼舞辻を倒して生きていたら、と約束をしたのだ。
それを果たすことなくわたしは死んだ。
残された伊之助くんは相当悲しんだのだろうけど、わたしはお館様に託した遺書を読んだのだろう。
いつまでもわたしを覚えてないで、幸せになって欲しい
そう残した。
もっと恨み言を言われると思ったのに予想外だったけれど。
あの日の約束を守りたい。
そう思った。
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