• テキストサイズ

【鬼滅の刃】雪夜の花【短・中編集】

第15章 しあわせのクローバー【嘴平伊之助】



❄︎

 「なぁ、椿姫」

伊之助くんがどこかぶっきらぼうに声をかける。
それに振り返ると、頬を赤く染めた伊之助くんが無愛想に「んっ」と翡翠色のリボンのついた四葉のクローバーと白詰草の小さな花束を差し出していた。

 『どうしたの?これ』

わたしはそれを受け取り、そう聞くと伊之助くんはそっぽを向いたまま

 「…しのぶにこれの花言葉を聞いたんだ。だから…お前にあげたくて」

そう言う伊之助くんにわたしは嬉しくなって抱きついた。

 『ふふふ、ありがとう!』
 「!…おう」

伊之助くんはわたしの背中に腕を回し、優しくぎゅっと抱きしめた。

❄︎

わたしは前世の記憶がある。
その記憶は大正時代で、鬼狩りをしている記憶だ。

小さい頃から夢を見ていた。
女の人が刀を持ち、怪我をしながらも鬼の頸を斬る怖い夢。
その夢はとてもリアルで、現実に起こったことのようで…その夢を見るたびによく泣いていた。

いつの頃からかそれが夢ではなく、わたしの前世の記憶だと気づいた。
身体が成長するにつれて、その女の人が顔も身体付きも自分によく似ていることに気づいた。

中高一貫キメツ学園に入学して、わたしはとても驚いたのをいまでも覚えてる。
だって、夢に出てきた人が生まれ変わってそこにいたから。

わたしのように記憶のある人もいたけれど、当たり前だが記憶がない人もいるようだった。
同じクラスに大正時代の同期だった炭治郎くん、伊之助くんがいて、ひとつ上の学年にカナヲちゃん、善逸くん、玄弥くんがいた。
彼らは全員記憶があって、伊之助くんはわたしを見るなり

「なんで!お前は…!!」

なんて怒鳴られてしまった。
怒られる原因は覚えていたから、

『うん、ごめんね。伊之助くん、約束守れなくて』

と謝ったら、あのときと同じぶっきらぼうに「…ん」と言って抱きしめてくれた。

わたしと伊之助くんは大正時代は付き合ってはいなかった。
鬼舞辻を倒して生きていたら、と約束をしたのだ。

それを果たすことなくわたしは死んだ。

残された伊之助くんは相当悲しんだのだろうけど、わたしはお館様に託した遺書を読んだのだろう。

いつまでもわたしを覚えてないで、幸せになって欲しい

そう残した。
もっと恨み言を言われると思ったのに予想外だったけれど。

あの日の約束を守りたい。
そう思った。

❄︎

/ 281ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp