第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
「ママーっ!」
「ママーっ!」
小さな子どもたちが駆け寄ってくる。
『はぁーい』
わたしは子どもたちを力一杯抱きしめた。
「ママ!しゅきっ!」
ひとりは男の子。
「ママ!しゅきっ!」
ひとりは女の子。
『ママも好きよ。琥珀、翡翠』
琥珀は右目が黄色、左目が透き通るような青色。
翡翠は右目が透き通るような青い色、左目が緑色。
双子揃ってオッドアイなのだ。
ふたり合わせて、まるで小芭内さんのように…
青い瞳はわたし譲りだ。
そして、艶やかな黒髪は毛先にかけて青いグラデーションになっている。
産まれたときより、色がはっきりしてきた気がする。
黒髪はやはり小芭内さん譲りなのだろう。
毛先の青い髪の毛はわたし。
『琥珀、翡翠。そろそろ帰りましょうか』
わたしは琥珀と翡翠の手を取り、ゆっくり歩き出す。
鬼殺隊を去って3年の年月が流れた。
つわりが始まった頃に、しのぶさんに妊娠していることがバレてしまった。
体調もずっと悪く、このまま鬼殺隊を続けることはできないと思っていた。
柱合会議前にお館様に妊娠していること、つわりがひどいことを話し、辞めさせて欲しいと伝えた。
お館様はふたつ返事で了承してくれた。
「うん、椿姫が決めたことなら私は反対はしないよ。……ただね、椿姫。本当に後悔はしないのかい?」
『はい、後悔はないです。誰が父親かはわたし自身がわかっています。それに、もう会うこともないですから』
それを聞いたお館様の悲しそうに微笑む顔を、わたしは気付かないフリをした。
わたしは、お館様ですら誰が父親か話さなかった。
しのぶさんは小芭内さんが父親だと薄々勘づいているだろう。
鬼殺隊士は死と隣り合わせなのだ。
明日もある命か分からないことを知っている。
彼に鬼殺隊を辞めてほしいと思ってしまう自分がいるのだ。
それなら、最初から彼がいない方がいい、そう思った結果だった。
わたしは柱を辞め、鬼殺隊を去り、遠い土地へ引っ越した。
月日が流れ、双子の男の子と女の子が産まれた。
❄︎