第2章 さよなら、愛しい人【伊黒小芭内】
そして、次の日から椿姫はいつものように
『あら、伊黒さん。こんにちは』
苗字で呼んできた。
俺は迷った末、
「…あぁ。雪柳、大丈夫か?」
いつものように苗字で呼んだ。
『はい、大丈夫です。…大変、ご迷惑をおかけしました』
頭を下げて、俺の元を去って行った。
ぽっかりと心に穴が空いた気分だった。
❄︎
あれから数ヶ月後、半年に1度の柱合会議が開かれた。
柱がちらほら集まって来たころ、雪柳が遅れてお館様のお屋敷に来た。
どこか顔色が悪く、フラついているように見える。
すぐにお館様が到着し、柱合会議が始まった。
滞りなく柱合会議が終わると、雪柳はすぐに立ち去ったようで気付くと姿がなかった。
そして、雪柳の姿を見たのがこれで最後だった。
お館様は、
「体調が悪く、柱を引退させて欲しいと言われていてね。この前の柱合会議が最後だったんだけどね。言わなくていいって口止めされていてね」
と言われた。
その後、胡蝶に呼び出された。
「…雪柳さんを忘れてください、伊黒さん」
それだけ言うとその場を去ってしまった。
雪柳が…椿姫がいなくなってから、この気持ちに気付くとは…
俺はこんなにも愚か者だったのか…
そう思う毎日だった。
「もし…願いが叶うなら…もう1度、椿姫に会いたい…」
そう毎日願っていた。
椿姫がいなくなって3年の月日が流れた。
❄︎