第13章 たくさんの幸せと少しの涙【不死川実弥】
家に帰ると電気がついておらず、真っ暗だった。
時間を確認すると時刻は18時になる少し前で、予定より遅くなったが急いで帰ってきたのだ。
「椿姫?いないのか?」
俺はリビングの扉を開けると、放り出されている椿姫が買ったであろう本屋の袋と、椿姫のバッグが無造作に置かれ中身が飛び出していた。
電気を付けてから椿姫の散らばったバッグの中身を片そうと手を伸ばすと、見慣れないものがあることに気づいた。
「母子手帳…?」
それを手に取ると椿姫のうめくような声が聞こえて、ソファに目をやると眩しそうに目を擦り身体を起こす椿姫がいた。
「椿姫、こんなところで寝たら身体冷えるだろ」
俺は立ち上がり椿姫に寄ると、椿姫は俺の手に持つ母子手帳を見て目を見開いた。
『ど、して…それ持ってるの…』
「あ?カバンの中身飛び出してたから拾ってたんだ」
椿姫に母子手帳を差し出すと、椿姫はおずおずとそれを手に取り膝に置いた。
『…ねぇ、実弥さん』
椿姫はいつもより元気がないように見える。
ただ俯いているから、というわけでもないようだ。
俺はソファの近くにしゃがむと椿姫の顔を覗き込む。
「どうした?」
『今日、一緒にいた女の人…誰?』
椿姫は手を白くなるまでぎゅっと握り、微かに震えているのがわかった。
俺は今日あったことをいちから話すことにした。
「ショッピングモールで見たのか?俺のこと」
椿姫は静かに頷いた。
「ありゃぁ、俺のいとこだ。他にも俺の兄弟がいたんだが、ちょうど別行動してたときだろうな。俺を見かけたの」